感情論は抜きで議論せよ。安倍氏「国葬」の是非を冷静に考察する

2022.09.19
 

また、原発の「処理水」の海洋放出の問題が残っている。処理水の放出は人間や環境に影響がないことが科学的に確認されているものの、中国や韓国などが反対している。風評被害への懸念も根強く、事故後に売上が戻らない漁業関係者や水産加工業者も反対している。

要するに、安倍政権が震災復興を進めたことは評価できるが、いまだにさまざまな懸案を残して批判もある。これを国葬実施の理由とすれば、賛否はさらに分かれるのではないか。

2.の安倍元首相が「経済再建」に尽力したということにも疑問がある。私は、安倍政権の経済政策「アベノミクス」を評価していない。

確かに、アベノミクスは実施した当初、国民から高い支持を受けた。円高・デフレ脱却に向けて、2%の物価上昇率を目標として資金の供給量を劇的に拡大する異次元の金融政策「黒田バズーカ」を断行した「第一の矢」金融政策、過去最大の100兆円を超える巨額の財政出動を断行した「第二の矢」公共事業によって、為替を円安に誘導し、企業の業績が瞬間的に回復した。これが「失われた20年」と呼ばれた長年のデフレとの闘いに疲弊しきって「とにかく景気回復」を望んでいる国民の心情に合致したのだ。

だが、その回復とは、1ドル=70円台から120円台となって、利益が増えたにすぎなかった。既に、日本企業は工場を中国・アジアといった海外に移転していた。円安のメリットを生かして輸出を増やそうとしても、そもそも工場が日本国内に存在しないのだから、増えるわけがない。海外に移転した工場は、日本国内に戻らず、輸出量は増えなかった。

そもそも、「金融緩和」「公共事業」は、あくまで、国民をデフレとの戦いから一息つかせるための、「その場しのぎ」でしかなかったはずだった。本格的な経済回復には「第三の矢(成長戦略)」が重要なのだが、さまざまな業界の既得権を奪うことになる規制緩和や構造改革は、内閣支持率に直結するので、安倍政権にとってはできるだけ先送りしたいものとなった。安倍政権が「成長戦略」と考えた数々の政策は、多かれ少なかれ、今までの政権でも検討されてきたものだった。従来型の「日本企業の競争力強化策」で、基本的に誰も反対しない政策の羅列でしかない。あまり効果が出ないのも無理はないことだった。

結局、安倍長期政権の間、経済は思うように復活しなかった。斜陽産業の異次元緩和「黒田バズーカ」の効き目がなければ、更に「バズーカ2」を断行し、それでも効き目がなく、「マイナス金利」に踏み込んだ。これは「カネが切れたら、またカネがいる」という状態が続き、財政赤字が拡大した。新しい富を生む成長産業が生まれず、なにも生まない斜陽産業を救い続けるだけだったのだから、仕方がないことだ。

そして、成長産業が生まれなかったツケに、日本は今、苦しんでいる。「人工知能(AI)や量子技術などの研究開発」「スタートアップ支援」「デジタル化」「再生可能エネルギー」などへの取り組みが、欧米のみならず、中国・韓国などアジア諸国などと比べて大幅に遅れてしまった。

また、世界的なインフレの急激な進行に、欧米の主要な中央銀行は、利上げで対抗している。しかし、日銀は景気を下支えするという理由で金融緩和の継続を決めた。日銀と欧米と真逆の方向に動かざるを得なかったのは、日本企業が利上げに耐える体力がないからだという。それは、アベノミクスで「カネが切れたら、またカネがいる」のバラマキを続けて斜陽産業を延命させ続けたからである。

このように、アベノミクスは問題の多い政策で、その結果に国民は苦しんでいる。経済政策の成果を理由に国葬を実施するというのは、無理がありすぎる。

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