感情論は抜きで議論せよ。安倍氏「国葬」の是非を冷静に考察する

2022.09.19
 

3.と4.は安倍外交にかかわることだ。だが、安倍外交は、「北朝鮮拉致問題」「北方領土問題」などで確たる成果を挙げることができなかった。安倍外交で特筆すべきことは、安倍首相の在任期間が長かったということに尽きる。

日本外交は、基本的に誰が首相でも変わらないものだ。それは、歴史的にみても、古くは中国との関係、明治政府から第一次大戦までは「日英同盟」、戦後は「日米同盟」という、覇権国家の補佐役、ナンバー2の役割だと思う。安倍元首相は、長く首相の座にあったことで、その役割をよく果たしたとはいえる。

日本の役割とは、まず世界中の中堅国・小国がなにか困ったことがあれば、相談に乗り、快くカネを出し、支援することだ。それらの国が、米中露など大国に話をしてほしいと頼んでくれば、快く話をしてあげる。大国側も、日本の頼みであれば、ある程度譲歩してくれる。

一方、大国側も、さまざまな中堅国・小国とのさまざまな問題を解決したいとき、日本に仲介に入ってもらおうとする。また、大国間が厳しい交渉に入った時、日本が間に入ることを希望する。これが国際社会における日本の役割であり、それは誰が首相でも変わらない。

安倍首相は、長い在任期間に、ドナルド・トランプ米大統領、習近平中国国家主席、ウラジーミル・プーチン露大統領、アンゲラ・メルケル独首相(以上、当時)など、世界の海千山千の指導者の信頼を得ることに成功し、その日本の役割をよく全うできたということだ。だが、裏返せば「在任期間が長かった」から、普通にやるべきことができたということで、それ以上ではない。安倍外交は、国葬を実施するに値するほどのものではないと考える。

要するに、岸田首相が国会で説明した、安倍元首相の国葬を実施する4つの理由は、説得力に欠けると言わざるを得ない。ゆえに、私は国葬実施には疑問を持っている。

しかし、国葬をめぐって国論が二分され、感情的な対立となっている現状は非常に残念に思う。特に、反対派の国会議員が、届いた国葬の招待状をSNSで公開し、「国葬に参加しない」と訴えたりしているのは、非常に見苦しいことだと思う。

1つ提案をしたい。今後、首相経験者がお亡くなりになった時は、すべて「国葬」を実施すると国会で法律を制定してはどうだろうか。これは、自民党の首相経験者だけでなく、非自民党の元首相である細川護熙氏、村山富市氏、鳩山由紀夫氏、菅直人氏、野田佳彦氏がお亡くなりになる時も、国葬を実施ということだ。野党側も話に乗れるだろう。首相という重責を担った人物に対しては、党派や思想信条、政策志向や業績にかかわらず、国民が一定のリスペクトを示そうということだ。

もちろん、国葬は国民から集めた血税を使って実施するのだから、その適正な規模はどうあるべきか、海外からの参加はどの程度とすべきか、国会で徹底的に議論すればよいと思う。これならば、国民も納得できるだろう。

安倍政権期に、さまざまな問題をめぐって国民の「分断」が起こった。その安倍元首相の国葬をめぐって、さらに「分断」が広がることはよくないことである。感情論を排し、落ち着いて今後を考える1つの方策として、今後すべての首相経験者を「国葬」とすることを議論してもいい。それは、多様な人々が、多様な思想信条を持つことをお互いに尊重し合う日本社会を再構築する契機となるのではないだろうか。

image by: 安倍晋三 - Home | Facebook

上久保誠人

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

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