感情論は抜きで議論せよ。安倍氏「国葬」の是非を冷静に考察する

2022.09.19
 

本稿は、国民を「分断」している感情論と距離を置いて、安倍元首相の「国葬」の是非を検証する。まず、反対派の「国葬の執行についての基準を定めた法律はないので、法的根拠がない」という主張から考える。

岸田首相は「内閣(府)設置法や閣議決定」を根拠として、国葬を実施すると説明している。具体的にいえば、国葬の根拠は「閣議決定」であり、閣議決定の対象となる「行政権に関する事務」を明記している「内閣府設置法」で、「国の儀式に関する事務」が決められている。その中に「国葬義」が含まれているということだ。

これに対して、反対派は閣議決定だけを根拠に国葬の実施はできない、根拠となる法律が必要だと主張している。だが、根拠となる法律が存在しなければ、行政権が発動できないというわけではない。

もちろん、国民の権利を制限する、国民に義務を課す課題については、国会で審議し、法律を制定するのは当然だ。しかし、そこまでする必要がない、閣議決定による行政権の行使も数多く存在しているのだ。そして、岸田首相は、閣議決定のみで国葬を実施できるか内閣法制局と「しっかり調整したうえで判断した」と述べているのである。

国会での審議を経ない首相の決断が「非民主的」というのも言い過ぎのように思う。議院内閣制である日本の首相は、選挙で勝利した議会多数派から選出される。ゆえに、首相の決断に「民主的な正当性」はある。その決断に問題があると国民が考えるならば、次の選挙で政権の座から降ろせばいいのではないだろうか。

逆にいえば、「国葬」実施という行政権の行使を、絶対に国会で議決しなければならないという反対派の主張の法的根拠はどこにあるのだろうか。

要するに、グレーなところはあるものの、岸田首相の「内閣(府)設置法や閣議決定」を根拠として、国葬を実施するという決定は、現行法の運用の範囲内ではあるというのが公平な評価だろう。

ただし、安倍元首相の「国葬」実施の閣議決定に法的根拠があるとしても、岸田首相の決定自体が正しいかどうかには疑問がある。

岸田首相は、国会の閉会内審査で、国葬実施の4つの理由を述べた。

  1. 安倍元首相が憲政史上初最長の首相在任者だったこと
  2. 震災復興や経済再生に尽力したこと
  3. 日米同盟を基軸とした戦略的外交を主導したこと
  4. 諸外国で議会の追悼決議や服喪のほか日本国民へも弔意が示されたこと

である。

だが、戦後吉田茂元首相1人だけだった「国葬」を、安倍元首相に対して実施する理由としては、残念ながら弱い。

まず、1.の首相在任期間が「憲政史上最長」だったことだ。だが、安倍元首相の前に、史上最長の在任期間だった佐藤栄作元首相の「国葬」を実施していない。佐藤元首相は、「沖縄返還」を成し遂げ「ノーベル平和賞」を受賞していた。客観的にみて、安倍元首相よりも大きな業績を挙げていたにもかかわらず、国葬が行われなかったのだ。従って、在任期間が長かったというのは、国葬実施の理由としては弱い。

次に、2.の震災復興に尽力したということだ。確かに、安倍政権下で多大な費用と時間をかけて、着実に東日本大震災の被災地の地域再生が進んだ。例えば、「復興道路」「復興支援道路」の建設など、復興事業の多くは国費負担で行われ、復興予算は32兆円を超える見込みだという。財源がない被災自治体の復興を強力に後押ししたことは評価に値する。

一方で、復興から置き去りにされたままの人々がいる。多くの問題が残ったままの現実がある。東京電力福島第一原発事故によって帰還困難区域に指定された地域では、住民に対する避難指示が出されたままで、その解除は少しずつしか進んでいない。今も災害公営住宅に住み、自宅に戻れないまま孤立や家賃負担に苦しむ人々がいるのである。

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