あまりに幼稚。胡錦涛前国家主席「退席劇」への日本メディアの過剰反応

 

胡海峰は習近平の下で順調に出世をしていて、少し前には習が力を入れるマフィア取り締まりで全国的に知名度を高めるほどの功績を上げ、認められているのだ。胡錦涛が党大会という晴れの舞台で習に赤っ恥をかかせれば息子はどうなるだろうか。それとも胡は、息子の将来を潰してでも、李克強や汪洋、胡春華のために危険を冒したとでもいうのだろうか。さて、こういうことを書き始めると際限なくなるので次に進めたい。

本稿のメインテーマは、習近平政治のメカニズムを日本が本当に理解しているか、否かに焦点を当てることだ。いや、習近平政治どころか中南海の中身を、本当にどれくらい理解できているのか。ひょっとすると既成事実として自然に使われるフレーズ──例えば「異例の3期目」とか「胡錦涛派」という派閥の理解──にさえ疑問の目を向けるべきなのではないかという問題提起だ。

今回の胡の騒動は、背景に「習近平の独裁には党内にも多くの反対がある」という決め付けがある。そのさらに背後には習が強引に独裁体制を築いたとの前提がある。確かに中国の市井の人々の間に同様の反応があることは否定できない。しかし党の中枢が、そうした感覚を共有しているかといえば定かではない。

少し整理しておきたいのだが、習指導部がスタートする時点で、習に独裁を実現する力があったのか、否かである。おそらくなかったはずだ。しかし現実には胡錦涛時代に頻出した「集団指導体制」という言葉は、習指導部のスタートとほぼ同時に消えているのだ。

この矛盾を解くのは公式文書だ。6中全会(中国共産党第19期中央委員会第6回全体会議)の公報や歴史決議などを読む限り、胡錦涛から習近平へと指導者が交代する過程で、意図的に強い力を習に集めたことが説明されている。公報を読み解くための新華社の記事の言葉を引用すれば、以下のようになる。

「中国は30年余りの改革開放を経て国力が増強されていたが、同時に、経済の下押し圧力や貧富の格差、生態環境の破壊、社会矛盾の蓄積など根深い難題にも直面していた。改革も幾つかの阻害が生じており、より科学的なトップダウン設計が必要だった」

歴史決議には、さらに細かく当時の党が抱えていた問題が描かれていて、そうしたことへの対処の必要性も強調されている。この「科学的なトップダウン」が今の形を想定したものかどうかはわからないが、習近平の抜擢と同時に党や軍に大ナタを振るうことが求められていたことは歴史決議にも明記されている──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年10月30日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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