天安門事件の再来か。中国で上がる反体制の声と江沢民の“亡霊”

 

いろいろと書いていますが、個人的には、中国による台湾侵攻の可能性はかなり低いと見ています。

以前、アメリカ海軍の司令官の見立てとして6年以内に侵攻するとの証言が上院で行われ、日本でも大きく取り上げられましたが、統合参謀本部議長のミリー氏によると「中国人民解放軍にはそれだけの能力がまだなく、かつその用意もない」という状況であり「実戦経験を有しない人民解放軍は、自ら攻めて出ることは考えていない」と発言しています。これには私も同意見です。

しかし、中国は確実に台湾を獲得しに来ます。ただし、非軍事的な方法を通じてです。

以前、お話ししましたが、中国の軍事戦略の特徴として噂やデマ、情報操作、相手国の政治的リーダーシップへの働きかけなど多岐にわたるSoft warを実施し、影響力を握るという戦術があります。

折しも台湾では、これまで人気を博し、中国とも真っ向から対立することを厭わない蔡英文氏が総統として政権を担ってきましたが、今回の選挙では彼女がリーダーである与党・民進党は大敗を喫し、蔡英文氏も党首を辞任するという事態に陥りました。代わりに親中派とされる国民党が勢いを得て、台北市長には40代にして蒋介石の曾孫が当選するなど、大きなうねりが起きています。

もしこれが北京が行った情報戦略の成果だとしたら、国民党が勢いを取り戻す中、親中派の国民党政権の樹立をバックアップし、平和裏に「一国二制度」を台湾に飲ませることで実質的に併合を図っていくという戦略がはまることになります。

ただ台湾国民からは、近年、香港で起きている事態をベースに大きな警戒心が寄せられているのも事実ですが、一滴の血も流さずに“平和裏に”台湾併合という核心的利益を実現するという、習近平国家主席の宿願が叶えられるレールが敷かれることになります。

唯一のハードルは、現在、中国国内各地で行われているゼロコロナ政策へのデモ、特に上海市を舞台にした反体制・反共産党・反習近平のデモが大きなうねりにならないようにすることでしょう。

メディアには【天安門事件以来の民主化の波】という報道が見られますが、実際には中国国内の雰囲気は違い、基本的にはゼロコロナ政策への不満に当局がきちんと対応できれば収まる事態という見方が強くあります。

しかし、上海市のデモについては要注意で、もし同様の意見が全国、特に北京に飛び火するようなことがあれば大変な事態が中国に待っているかもしれません。

もしかしたら、自ら民主化の波を押さえ込んだ上海出身の江沢民氏の亡霊が何かしらやらかすかもしれませんが…。

しばらく中国情勢からは目が離せません。

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