2023年に人類を襲う大混乱。国際政治学者が出した「世界10大リスク」の警告

 

本当の「ならず者」は誰か?

全体の印象は、例年に比べても低調、凡庸で、以前には何度か感心させられたこともある切れ味がない。とりわけ、リスクNo.1にウクライナに侵攻したロシアを持ってくるのは当然として、それを見出しのように「ならず者国家」(英語原文はRogue Russia)と概括するのは余りに月並みで、ロシア語が堪能な本来はロシアが専門であるブレマーの仕業とは思えないほどである。文中でも、「ならず者国家ロシアは、今や最も緊密な存在となったイランのグローバル版となるだろう。ロシアが転落する前、イランは世界で最も強力なならず者国家であり、国際社会から事実上『切り離された』存在だった」と、ならず者国家の筆頭がイランからロシアに代わり、しかもそのロシアが「世界最大の核戦力」を持って世界を威嚇し始めていると警告している。

さらに、リスクNo.2には習近平を持ってきて、彼がもはや「誰の意見にも耳を傾けない絶対的権力者」にまで成り上がったと断定。その最大の理由として、彼のコロナ対策の右往左往を挙げている。私は、中国のコロナ対策にもその統計手法にも色々問題があることは認識しているけれども、これを論ずる場合の大前提は、世界的に権威があり、WHOとも米CDCや中国保健当局とも緊密にデータ交換している米ジョンズ・ホプキンズ大学の「COVID-19 Dashboard」(図1)の基礎的な数字を踏まえることである。図はそのトップ部分の最上部で、これは最近28日間の感染者数の多い順に表示されているので、1月8日現在、日本は世界No.1で422万9,489人、その右の白数字7,662人は同期間の死者。No.2は米国で、180万85人。死者は日本より多い1万1,771人。それに対し中国は同期間のランキングでNo.7の感染者58万876人、死者1,304人でだいぶ少ない。それよりも何よりも驚くのは、各国別数値の2段目に表示されている累計で、それで見ると、米国は感染者数1億123万9,724人、死者数109万6,503人のダントツNo.1。日本は3,030万5,173人、死者ももうじき6万に届きそうな5万9,423人。それに対し中国は、感染者466万7,301人、死者は何と1万7,531人……。

どうして米国人であるブレマーが、自国で110万人という中国に比べて60倍もの死者を出していることを胸に手を当てて省みることもなく、中国のコロナ対策が失敗したと揶揄的に語っているのか。全く理解不能である。さらにこれらの数字は人口当たりに換算して検討することも必要だろう。なぜ人口が中国の10分の1以下の日本で中国の3.4倍もの累計死者が出ているのかを考えるべき時だというのに、日本のテレビのワイドショーで無知なおばさんのコメンテーターが口を歪めて「一体、習近平は何をやってるんですかねぇ」などと言っているのがこの国の末期症状である。

ブレマーは、しかもその習近平が22年2月にプーチンとの間で「無制限のパートナーシップ」を発表した事実を重視していて、つまりはロシアと中国は(北朝鮮をも横に従えて?イランを新たに味方に引き入れて?)中ソ対立以前、1950年代に存在したことのある「旧共産陣営」を復活させて「西側」に全面対決を挑んでくるという情勢観を醸し出そうとしているかのようである。

一般のマスコミがこの程度の議論で終わるのは仕方がないが、ブレマーほどの異才がこんな凡百を並べていることに失望する私に言わせれば、世界最強最悪の「ならず者国家」は米国であるというところから世界の先行きを論じなければ、ほとんど何の意味もないのである。

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