言い値で武器買う“飼い犬”にご褒美。バイデンが岸田首相を大歓迎した裏事情

 

それでも一応は、43兆円の内訳というものがあるらしい。東京新聞の記事によると、自衛隊員の給与や食費など「人件・糧食費」11兆円、新たなローン契約額のうち27年度までの支払額27兆円、22年度までに契約したローンの残額5兆円だという。ローンとは「後年度負担」と呼ばれる分割払いであり、1年では賄えない高額な装備品や大型公共事業に適用される。

安倍政権はこのローンの仕組みとアメリカ国防総省が行っている対外軍事援助プログラム「FMS」を使って、米国製兵器の購入を拡大した。グローバルホークやオスプレイ、イージス・アショア、戦闘機(F-35A)などがそうだ。

だが「FMS」は、メーカーではなく米政府を窓口として兵器を調達するシステムだ。対価は前払いに限られ、納期が年単位で遅れることや、支払い時には当初の見積りより価格が高騰することもざらにある。つまり米側の「言い値」と「条件」に従わなければならないのだ。

イージス・アショアの場合、2020年6月15日、河野太郎防衛相(当時)が導入計画の停止を発表したが、その代わりにイージス・システム搭載艦の採用を迫られ、その後もイージス・アショアのレーダー取得費として277億円を支払っている。

新たなローン契約額とされる27兆円のなかには、2027年度までをメドに最大500発の購入を検討しているとされる巡航ミサイル「トマホーク」も含まれるのだろうが、なぜ40年前に開発された旧式の兵器を導入するのかが明確ではない。目標までの射程は十分でも、速度が弾道ミサイルよりも遅いために、打ち落とされる可能性が高いといわれている。

しかも、日本がトマホークを使おうと思っても、米国の了解を得て、高度な情報の提供を受けねばならず、良し悪しは別として、あくまでも米国のコントロールのもとに置かれる。

「FMS」は米軍産複合体にとって、莫大な利益を生み出す仕組みである。バイデン政権の高官たちが、FMSで兵器を大量購入することを決めた岸田首相の訪米をこぞって歓迎するのは、実に素直な反応といえるだろう。

いうまでもなく、第2次安倍政権以来の“軍拡路線”は、米国政府の意向に沿ったものだ。憲法解釈を変更してまで集団的自衛権の行使を容認し、米国とともに戦うことのできる国をめざしてきた。しかしそこには、日本が危機に瀕した場合、米国は本当に守ってくれるのかという不安がつきまとっている。

だからこそ安倍晋三氏は総理在任中、米国が攻撃されたときに自衛隊が血を流す間柄になってこそ、米国も本気で日本の防衛にあたってくれるという趣旨の発言を繰り返してきたのだ。

岸田首相は安倍政権で5年近く外務大臣をつとめたこともあり、米国との無難な付き合い方を身につけているのかもしれない。つまり、米国を怒らせては政権は長続きしないという悲痛な戦後史を知悉しているのではないか。

古くは田中角栄元首相の例がある。米国の了解を得ずに日中国交正常化をなしとげ、アラブ寄りの資源外交を進めようとしたためにニクソン大統領やキッシンジャー大統領補佐官の怒りを買い、「キッシンジャー意見書」などの米側資料が東京地検の手に渡った。それがロッキード事件の引き金になり、田中氏は逮捕された。

2009年に誕生した民主党政権で首相の座に就いた鳩山由紀夫氏は米軍普天間基地の県外移設を打ち出したために、外務・防衛官僚から総スカンを食い、1年ももたずに退陣した。

日本の官僚と在日米軍幹部との協議機関「日米合同委員会」が米国側の意向を押しつける装置になっていることを鳩山首相は気づかなかった。この会議においては、日本の憲法や法律より日米安保条約が上位にある。

「砂川裁判」の最高裁判決(1959年)以来、日米安保にかかわる問題なら、たとえ憲法に反する場合でも、最高裁は違憲判決を下さないということが定着したが、それも日本の官僚が米国の言いなりになることを保身の道と考えるきっかけになった。

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