日本人の「癖」が邪魔をする。中小企業にイノベーションが生まれない訳

 

3.日本の量産はサンプル生産

日本のメーカーは、多品種少量生産を得意としています。というより、輸出ができなくなり、国内需要だけの仕事なので、小ロット(少量)の仕事しかないのです。

例えば、一般の国内アパレルの生産は数百枚の単位です。しかし、グローバル生産では最低でも数千の単位、量産となると数万の単位のオーダーになります。数百枚という数量は、グローバルではセールスサンプルのレベルです。

「中国生産をやめて国内生産に戻せばいい」と言いますが、多くの場合工賃が合いません。アパレル製品を国内生産に転換するなら、価格は2~4倍になるでしょう。中国生産が始まる前のアパレル製品は価格の水準に戻るということです。

「中国から東南アジアに行けばいい」という意見もありますが、一般的に東南アジアの方が中国より生産ロットが大きい。1万枚以上の数量が普通です。日本の一般のアパレル企業では付き合えないのです。実は、日本の縫製工場でも万の単位のオーダーがあれば、工賃は安く抑えられます。但し、規模が小さいので時間が掛かります。

日本のアパレル企業では、量産の前に展示会サンプルを作り、その前にデザインサンプルを作り、その前にトワル(生成りの綿布)で平面のパターンを立体に組み立てます。各段階で確認、修正が行われます。そして、サンプル段階で多くのデザインがボツになります。

このサンプル生産の問題は、テキスタイルでも同じです。いくつもの試織をして、量産になるのはその中のほんの一部であり、量産と行っても最低ロットがやっとです。これを全国で見たら、どれほどのサンプルが作られ、ボツになっているのでしょう。世界中の試作をしているようなものです。

客観的に見ると、日本のメーカーは商品開発センターであり、量産メーカーではないと認識しています。従って、グローバルな量産工場と組み、商品企画そのものを販売する企画会社になった方が有利だと思っています。サンプル生産なら工賃が高くても通ります。

しかし、多くのメーカーの社長は、「うちは企画会社ではない」と考え、企画会社としてのスキルを磨こうとはしません。あくまで、誰かがオーダーしてくれる前提の工場を死守したいのです。そして黙々と技術を磨いています。それはそれで素晴らしいのですが、もう一歩跳んでほしいなと思います。

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