2.生機輸入で成功した国内毛織物メーカー
日本では、国内生産か海外生産かの二者択一で考えます。国内生産のコストが合わないと海外生産を考えます。
しかし、イタリアのメーカーはもう少し細かく考えます。海外生産する場合も、いかに自社のノウハウを守るかを前提にします。例えば、アパレル生産で、裁断は社内で行い、縫製だけを海外に委託するケースがあります。これは、型紙はノウハウそのものであり、型紙を海外に送るとノウハウが流出するからです。もちろん、裁断したパーツをコピーすれば、パターンを盗むことはできるのですが、それでも余分な作業が増えます。
原産国表示は各国によって差があり、イタリアは基準が甘いので、極端にいえば、最終のボタン付けとプレスだけを行ってイタリア製だと表示することもある、という話を聞きました。
現在は、イタリアの工場が中国人に買収され、技術のない中国人労働者が働き、品質の低いイタリア製品が増えていることが問題になっています。
海外生産と一口に言うのではなく、どの工程を海外で行うか、どの工程を国内で行うかと考えています。しかし、日本は貿易は商社が行っているので、海外で完成品に加工した海外製品を輸入する形態になっています。
毛織物の分野でも、半製品(生機)を輸入して国内で染色整理して成功した事例があります。生機(きばた)とは、染色する前の生成りのウール生地です。
毛織物の風合いは染色整理で決まります。染色とは色を染めること。整理加工とは、髪の毛にリンスをするように、毛織物にリンス剤を使ってもみ洗いすることで、ウール独特のソフトな風合いを出すことです。
日本の整理加工技術は世界でもトップクラス。日本の良質な水資源と長年の技術の蓄積によるものです。中国では豊富な軟水が使えず、発色も悪く、風合いも硬くなりがちです。しかし、機織工程では、温度と湿度がコントロールできて、原材料の糸と機械があれば、どこで織っても問題はありません。
中国で安い生機(きばた)を生産し、国内で備蓄し、オーダーが来たらクイックに染色整理して納品する。これにより、納期も短く、品質も高く、価格も安い毛織物が提供できるようになりました。
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