「ウクライナの次」の国に揺さぶりをかけるプーチンの迷惑千万
ただ、もしこの習近平国家主席による仲裁が不発に終わってしまった場合、習近平国家主席の権威に大きな傷を刻むことにあり、中国共産党の威光にも悪影響となるため、習近平国家主席の周辺は訪ロのタイミングを非常に慎重に探っているというわけです。
仮に中国が望む通り大きな役割を担うことになった場合、習近平国家主席ご本人とその周辺に、非常に複雑で困難な交渉と調停を行い、予想される欧米諸国からの妨害に対応するという仕事をやってのける能力があるかどうかは、また別次元の懸念ですが、今はまず、ロシアとウクライナがどこまで中国案を受け入れることが出来るかに注目したいと思います。
話はちょっと変わりますが、ロシアのプーチン大統領はウクライナとの戦争を行いつつ、旧ソ連圏の周辺国にも触手を伸ばしつつあるのは、ポスト・ウクライナの世界づくりに対して非常に大きな懸念材料です。
常に“ウクライナの次”と目されていたモルドバに対して、ロシアはお得意の世論操作を仕掛けると同時に、親欧米の立場を取る政権を苦しめるために、モルドバへのガスの供給を50%以上削減して、モルドバ国民に急激なエネルギー価格の高騰と30%強のインフレをお見舞いするという合わせ技を繰り出しました。ウクライナからの難民の流入によって公共サービスが圧迫されているところに、生活を苦境に陥れる策を講じて一気に攻め取ろうという作戦に思えます。
すでに2月には親欧米の政権を打倒していますが、そこに追い打ちをかけ、モルドバ国民にロシアの意図を示すかのように、プーチン大統領は2012年来尊重してきた“モルドバの主権を尊重する”という内容の政令を破棄する通達をしました。今、ウクライナのお隣で、ポーランドと同じくNATOのお隣でもあるモルドバに圧力をかけることで、戦局を有利に変えようとしています。
それに加えてジョージアの政治情勢を緊迫化させるべく働きかけを行っているようです。2008年のロシアによるジョージアおよび北オセチアへの侵攻以降、対ロ国民感情は非常に悪化していますが、政府は対ロ融和姿勢を貫き、現首相のガリバシビリ氏は「戦争に巻き込まれないことが最大の国益」として対ロ制裁にも応じず、参戦もしていません。
ただこの姿勢が悲願のEU加盟申請を頓挫させることにつながっており、それがまたジョージア国民の怒りの火に油を注ぐ事態に発展し、首都トビリシでは大きなデモに発展しています。
恐らくこの状況にロシアはほくそ笑んでいるのではないでしょうか。
ただこのプーチン大統領の野心に水をかけうるのが、中央アジアに影響力を拡大することを狙う中国の習近平国家主席です。
ウクライナの戦火が周辺国に飛び火して、火消しが不可能になってしまう前に地域の緊張緩和に乗り出さなくてはなりませんが、中央アジア・コーカサス発の長くつらい大戦争に発展するまでに残されている時間はあまり残されていないように思われます。
この事態に中国は、アメリカは、ロシアは、そして欧州各国はどう動くべきでしょうか。
残念ながら影響力を発揮できるメインプレーヤーの輪の中に日本は存在しないようです…。
以上、国際情勢の裏側でした。
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