賭けに出た習近平。ウクライナ戦争「和平案」提示のウラに透ける本音

 

欧州との和解と欧米諸国間の分断。中国の「深慮遠謀」

今回、中国政府が和平案を提示してきた狙いの一つは、欧州との関係修復と、欧米諸国間の結束を乱し、分裂状況を創り出すというものがあるように思われます。

米中対立の激化の中、欧州各国も対中姿勢を厳しくし、中国包囲網に加わる事態になっており、中国と欧州諸国との間の貿易にも支障をきたす事態になっていますが、中国がロシア・ウクライナ戦争の仲裁に乗り出す姿勢を示すことで、早期停戦に前向きとされるドイツ・フランスとの関係修復を図れるのではないかと期待している様子が覗えます。

もし中国とドイツ・フランスなどと協働できることになれば、あくまでも中国政府側の期待と前置きしておきますが、中国とフランス、ドイツとの経済的な結びつきを再強化でき、スランプ気味な中国経済の成長率再浮上のきっかけになるとの見方があります。

中国の一方的な思い込みなのか否かを確かめるためにフランス・ドイツ両政府に尋ねてみたところ、「中国による仲裁の申し出を真に受けることはできないが、中国の姿勢の転換に対してはポジティブな評価をしている」との反応がある一方、「欧州にとってはロシアへの過度な依存が今回のジレンマを生んだ反省から、あまり中国への経済的な依存度は高めたくないと思っている」という複雑な心境も垣間見えました。

しかし、プーチン大統領とゼレンスキー大統領がともに中国による仲裁を受け入れるような事態になった場合には、欧州内そして欧米諸国とその仲間たちの間の結束に大きな乱れが出ることになるかもしれません。

中国が姿勢を転換して仲裁に積極的に乗り出すようになった2つ目の理由は【ウクライナとの友好関係の維持】です。

習近平政権が一帯一路政策を本格化し始めてから一気にウクライナにおける中国の存在感(プレゼンス)が上がりました。

私が安全保障のみならず、環境・エネルギー案件でウクライナをよく訪れていたころ(15年前くらい)は、キーウにあるまともな中華料理屋さんは一軒しかなく、味もかなりひどいものだったのですが、その後、一帯一路の波に乗って中国資本がウクライナに押し寄せ、ウクライナ各地のインフラ事業をどんどん請負うことになり、それにつれて増えた中国人をもてなすための中華料理屋もかなり増え、何よりも味も格段に改善されました(ちょっと余談ですが)。

そして今や記憶のかなたに置き去りになっている感がありますが、ウクライナは旧ソ連時代の軍事的なセンターの一つであり、旧ソ連の置き土産としての大量の兵器と軍需産業があります。アジア太平洋地域での覇権拡大に乗り出す方針の中国は、自前の空母を持つ必要性を主張し、その後、中国初の空母「遼寧」の建造に成功しました。この遼寧は、実際にはウクライナが中国に売却した旧ソ連の空母を中国が改造してできたものです。

このディールの際、中国の人権問題への懸念と、中国の軍事力の拡大を嫌った欧米諸国はウクライナに売却を思いとどまるように圧力をかけましたが、ウクライナはそれを無視して、中国との約束を優先したというエピソードがあり、これが義理と恩を重んじる中国側に尊重されることになったと言われています(実際に中国政府内でウクライナのことを悪く言う人はいません)。

遼寧にまつわるエピソードはゼレンスキー大統領時代のウクライナとの取引ではないですが、ゼレンスキー大統領もしっかりと中国の重要性を認識しており、ゆえに中国が手交した和平案も無碍に拒絶する代わりに、働きかけに感謝の意を述べ、「前向きに検討する」と述べています。

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