賭けに出た習近平。ウクライナ戦争「和平案」提示のウラに透ける本音

 

軍事科学院は何を根拠に「今夏に戦争は終局」と分析したか

では今回の意外な分析結果に至る理由はどのようなものがあるのでしょうか?

理由として一つ挙げられたのが、「アメリカ政府がウクライナに供与している支援予算のうち、昨年12月に議会下院で成立した総額450億ドルに上る支援の期限が切れるのが今夏と見られ、先の中間選挙で下院の過半数を確保した共和党に対ウクライナ支援の継続および拡大に難色を示す議員が多いため、今秋以降のアメリカ政府によるウクライナ支援の先行きが不透明であること」でした。

実際に欧米諸国とその仲間たちからの援助額全体の5割強を占めるのがアメリカ政府からの支援ですが、仮にそれが秋以降停止する・縮小される場合、その前にロシア・ウクライナ戦争の停戦協議に向けてのプロセスをアメリカが動かそうとするのではないかとの見解を持っているようです。

中国政府としては、これまで国際社会からの要請に対しても消極的な姿勢を保ち、欧米諸国とその仲間たちが課す対ロ制裁に反対しながら、ロシア・ウクライナ戦争から意図的に距離を置いてきたイメージですが、アメリカおよび欧州諸国が停戦協議に向けた舵を切る前に、中国がキャスティング・ボートを握りたいと考えたのではないかと思われます。

その顕著な例が2月18日に王毅国務委員がミュンヘン安全保障会議で触れた“中国の考え”であり、ちょうどロシアによるウクライナ侵攻から1年が経った2月24日に中国政府が発表した12項目からなる和平案です。

内容的には特段目新しいものはないとされていますが、当事者であるロシア政府とウクライナ政府はともに前向きに検討する旨、表明しています。

しかし、NATOおよびアメリカ政府は辛辣に批判し、「中国は信頼されていない。ロシアに武器供与をしているとの疑いが強まる中で、和平案を提示するとは大きな矛盾に満ちている」とまで述べて、対決姿勢を強め、ウクライナ政府にも“決して受け入れないように”との釘まで刺しています。

しかしここで「ということは、中国による仲裁の可能性は消えただろう」と判断するのは時期尚早で短絡的だと考えます。

一つ目の理由は【中国による仲裁申し出に対する欧米諸国の反応に生まれた温度差の存在】です。

欧米諸国は一様に中国の申し出に対して困惑しているか、反射的に反対していますが、英米およびNATO事務局長が非難する一方、早期停戦の声が日に日に高まっているドイツとフランスは声高に全面否定していません。

出来れば自分たちが仲裁の任を担いたいという思いは見え隠れしますが、プーチン大統領に対して物言うことが出来、プーチン大統領が耳を貸す存在としての中国・習近平国家主席が仲裁に乗り出すべきだと言い続けてきたのはフランスやドイツ(そして一時期はアメリカ政府も)だったことが背後にあるように思われます。

Immediate termでの“春までには”という時期では、フランス・ドイツ共にウクライナへの軍事支援を拡大し、ドイツについては、虎の子のレオパルト2まで供与する方針ですが、国内世論の変化もあり、ドイツとフランスはNATO内では早期停戦を望む姿勢を出しています。

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