共同声明で謳われた条件付きの「核兵器のない世界」
以上は日本政府高官の話だが、フランスの日刊紙「ル・フィガロ」の記事では、ゼレンスキー来日の仕掛人はマクロン仏大統領、というイメージでとらえられている。
マクロン氏はG7の首脳の中で、ゼレンスキー氏を最も古くから知っている指導者だ。
ゼレンスキー氏が先週パリを訪問した際、彼がG7サミットに対面出席する考えはすでに「話の中にあった」とマクロン氏の顧問は指摘する。
ゼレンスキー大統領は今月13日から15日にかけて、イタリア、ドイツ、フランス、イギリスを訪問し、各国首脳に直接、対ロ支援を要請した。そのおり、マクロン大統領との会話の中で、対面出席の話が出たという書き方である。
マクロン氏は賛成した。ロシアからの石油輸入が激増し対ロ制裁の抜け穴といわれるインドのモディ首相ら招待国の首脳に直接、協力を要請できるまたとない機会となるからだ。
広島の空港に降り立ったゼレンスキー大統領は、沿道で待ち構える市民やウクライナからの避難民たちに英雄のごとく迎えられた。
ロシアから核の威嚇を受け続けるウクライナの大統領が、被爆地ヒロシマで、岸田首相とともに平和を祈るシーンを日本政府は作、演出した。これを見た自民党の有力政治家は「満点の出来だ」と叫んだというが、事実、20、21の両日に毎日新聞と読売新聞が実施した世論調査で、岸田首相の支持率はいずれも9ポイント上昇した。
ゼレンスキー大統領にとっても、広島訪問で得た成果は大きい。悪の帝国に立ち向かうゼレンスキー人気にあやかろうと、各国の首脳たちから新たな軍事的支援の申し出を受けたからだ。
とりわけ、ゼレンスキー氏がまだ旅の途上にあるころに米政府が決定したF16戦闘機容認のニュースはウクライナの戦況を大きく変える可能性があるだけに、欧米メディアを大いに賑わした。
米国は、ウクライナがロシアへの反転攻勢のため必要だと求めているF16戦闘機について、ヨーロッパの同盟国がウクライナへの供与を決めた場合、容認するというのである。バイデン大統領は、紛争のエスカレートを懸念して逡巡していたが、サミット出席を前に決断を下した。
こうして開かれたG7広島サミットは、首脳たちによる原爆慰霊碑への参拝、資料館の見学という厳粛性を帯び、さらには戦時下にあるウクライナ大統領の参加も加わって、これまでのサミットにはない話題満載のイベントとなった。
日本のテレビ番組は概ね高く評価しコメンテーターからも興奮気味のコメントが目立った。SNS上では「岸田首相はノーベル賞もの」との賛辞まで飛び出した。
しかし、冷静な目で見ると、首脳たちの共同声明に目新しい内容は乏しい。核軍縮に関する「広島ビジョン」を出したことについて岸田首相は「核兵器のない世界の実現に向けたG7首脳の決意を力強く示す歴史的意義を有するもの」と胸を張るが、ほんとうにそうだろうか。冒頭の、以下の一文は何を意味するのか。
我々は、核軍縮に特に焦点を当てたこの初のG7首脳文書において、全ての者にとっての安全が損なわれない形での核兵器のない世界の実現に向けた我々のコミットメントを再確認する。
ここで謳われている「核兵器のない世界」には「全ての者にとっての安全が損なわれない形での」という条件がついているのだ。
我々の安全保障政策は、核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている。
核兵器が「防衛目的のために役割を果たす」とは、核抑止力のことをさすのであろう。核兵器の保有を前提とした考えだ。
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