まるで「ゼレンスキー劇場」の広島サミット“失敗”に気づかぬ岸田政権の大罪

2023.05.31
 

「ゼレンスキー劇場」と化したG7広島サミット

岸田文雄首相は、サミット閉幕の記者会見で、「広島に迎え、核兵器による威嚇、ましてや使用はあってはならないとのメッセージを、緊迫感をもって発信した」と、ゼレンスキー大統領がG7広島サミットに参加した意義を強調した。

G7広島サミットは、まさに「ゼレンスキー劇場」と化した。

ゼレンスキー大統領来日の実現で、「G7広島サミット」は成功という印象を国内外に植え付けた。各種の世論調査では、岸田内閣の支持率が上昇した。首相は、これを絶好の機会ととらえ、衆院の解散総選挙に打って出るのではないかという噂が、永田町界隈でささやかれるようになった。しかし、現在の状況に、私は違和感がぬぐえないのである。

G7広島サミットの前、ゼレンスキー大統領は欧州各国を訪問し、さらなる軍事支援を調整してきた。戦況を変える切り札として、米国が開発している「F16戦闘機」の供与について、欧米諸国と話し合ってきた。そして、大統領は「フランスの政府専用機」で日本にやってきた。

日本は、これまで防弾チョッキ、ヘルメット、小型ドローンなどを提供してきた。G7広島サミットの岸田首相とゼレンスキー大統領の会談では、さらに1/2tトラック、高機動車、資材運搬車の自衛隊車両を、合計100台規模で提供することで合意した。自衛隊の軍用車両が現に紛争をしている当事国に提供されるのは史上初めてとなる。

だが、このようなウクライナに対する追加の軍事支援が、ロシア軍をウクライナ領から追い出し、戦争を終結させる切り札になるかは、甚だ疑問に思う。

既に、米英など北大西洋条約機構(NATO)は、「三大戦車」など、さまざまな兵器・弾薬類をウクライナに供与し続けてきた。しかし、戦局を抜本的に変えるのはできず、戦争はさらなる膠着(こうちゃく)状態に陥った。さらなる軍事支援でも、その状況は変わらないのではないか。

なぜなら、ウクライナの正規軍はすでに壊滅状態にあるとみられるからだ。ウクライナは今、NATO諸国などから志願して集まってきた「義勇兵」や「個人契約の兵隊」によって人員不足を賄っている。要するに、外国の武器を使って、外国の兵士が戦っているのがウクライナ陣営の現実のようなのだ。

つまり、米英などNATOは、ウクライナが失った領土を奪還することよりも、戦争を延々と継続させることを目的に、中途半端に関与しているようにみえる。

なぜ、戦争を長引かせようとするのか。その理由は、米英などNATOがこの戦争で被る損失が非常に少なく、得るものが大きいからだろう。

ウクライナ戦争開戦前から、この連載で繰り返し主張してきたが、東西冷戦終結後、約30年間にわたってNATOの勢力は東方に拡大してきた。その反面、ロシアの勢力圏は東ベルリンからウクライナ・ベラルーシのラインまで大きく後退した。

ウクライナ紛争開戦後、それまで中立を保ってきたスウェーデン、フィンランドがNATOへ加盟申請し、すぐに承認された。ウクライナ紛争中に、NATOはさらに勢力を伸ばしたのだ。

万が一、これからロシアが攻勢を強めてウクライナ全土を占領したとしても、「NATOの東方拡大」「ロシアの勢力縮小」という大きな構図は変わらない。世界的に見れば、ロシアの後退は続いており、すでに敗北しているとしても過言ではない。

その上、欧州のロシア産石油・天然ガス離れは確実に進んでいる。パイプライン停止を受けて欧州向けが急増したからである。米英の石油大手にとって、欧州の石油・天然ガス市場を取り戻す野望は現実になりつつあるのだ。

さらにいえば、米英などNATOにとってウクライナ戦争とは、20年以上にわたって強大な権力を保持し、難攻不落の権力者と思われたプーチン大統領を弱体化させ、あわよくば打倒できるかもしれない好機でもある。戦争が続くなら、それでもいいと考えても不思議ではない。

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