まるで「ゼレンスキー劇場」の広島サミット“失敗”に気づかぬ岸田政権の大罪

2023.05.31
 

ウクライナの徹底抗戦を支持し続ける国が「日本だけ」になる可能性

一方、すでに戦える状態にないにもかかわらず、米英などNATOの思惑で膠着状態が続けられているならば、ウクライナ国民の命はあまりにも軽く扱われているということにならないか。

要するに、G7広島サミットとは、欧米の利益のために続けられてきた戦争を、さらに継続するための話し合いの舞台だったということだ。

看過できないのは、この話し合いが、唯一の戦争被爆国であり、戦争の恐ろしさについて身をもって知り、平和国家としての道を歩んできた日本の、それも被爆地である広島で行われたということだ。

岸田首相は、「今、衆院解散総選挙を勝てる」と考えるほど、サミットの成功に酔っているという噂がある。だが、平和国家・日本、被爆地・広島の人々の平和への祈りは、踏みにじられてしまったというのが、サミットの現実であり、国際政治の冷酷さなのではないだろうか。

ウクライナ戦争を巡っては、米英などNATOや日本など「自由民主主義陣営」がウクライナの「徹底抗戦」を支持し、中国など「権威主義陣営」が「和平」を提案している。

自由民主主義の本質から外れた「逆転現象」が起こっているのだ。

それは、「力による一方的な現状変更」に対する考え方の違いから生じている。自由民主主義陣営はこれを到底容認できない。侵略された領土を取り返すためには「徹底抗戦」となる。

一方、権威主義陣営は、民主主義的な価値よりも、ウラジーミル・プーチン露大統領の「権威」を尊重する。だから、侵略について「ウクライナが一方的に正しいのではなく、ロシアにも言い分がある」という立場だ。だから、ロシアが軍事的に制圧している地域の併合など、ロシア側の意向に柔軟に沿った「和平」の提案ができることになる。

この「逆転現象」の中で、唯一の被爆国であり、平和国家の道を歩んできた日本が、ウクライナ戦争の「徹底抗戦」を支持し、G7のホスト国として、広島サミットを主導した。

だが、解散総選挙に打って出るのではとささやかれるほど高揚した岸田首相の気持ちとは裏腹に、今後日本が世界で孤立する懸念がある。ウクライナの徹底抗戦を支持し続けるのが、日本だけになってしまうかもしれないからだ。

欧米諸国の中でも、米英と仏独伊は、微妙に立場が異なっている。仏独伊は、できれば早期の停戦を何とか進めたいという「本音」がある。仏独伊をはじめとするEU諸国は、ロシアからの天然ガスパイプラインにエネルギー供給を深く依存してきたからだ。

前述のように、エネルギーの「脱ロシア」は進んでいるものの、米国からのLNG(液化天然ガス)は、ロシアからのパイプライン経由のガス輸入より割高だ。それがEU諸国の経済に打撃を与え続ける状況は続く。その影響をできる限り軽微にするため、早期停戦できるなら、その方がいいのが本音なのだ。

一方、前述したNATO・EUによる東方拡大の事実上の成功は、仏独伊に対しても有利な状況を生み出している。内心に余裕があるからこそ、早期に停戦してもいいとも考えるようになる。

さらに、仏独伊以上に“勝ち組”であることが確定している米国・英国は、それを裏返せば、実は戦争をいつやめてもいい状況だ。どこまでロシアを苦しめられるか状況を睨んでいる。中国の「和平案」が新興国などの支持を集める状況になれば、米英は主導権を握るために、一挙に和平に動くかもしれない。

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