まるで「ゼレンスキー劇場」の広島サミット“失敗”に気づかぬ岸田政権の大罪

2023.05.31
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ゼレンスキー大統領の電撃出席で全世界の耳目を集め、成功裏に閉幕したとの報道も少なくないG7広島サミット。しかし日本政府は大きな過ちを犯したという見方もあるようです。今回、政治学者で立命館大学政策科学部教授の上久保誠人さんは、サミットへのゼレンスキー大統領出席は大きな間違いを招いたとして、そう判断せざるを得ない理由を解説。さらにウクライナ戦争を巡り、この先日本が孤立しかねない可能性を指摘しています。

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

広島サミット「ゼレンスキー大統領の電撃出席」は大間違いだったと断言できる理由

主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)が開催された。G7と欧州連合(EU)に加え、いわゆるアウトリーチ国としてブラジル、インド、インドネシア、韓国など8か国が参加し、合計16の国・地域・国際機関の首脳が一堂に会した。

G7の首脳は、核軍縮に特に焦点を当てた初のG7共同文書「広島ビジョン」をまとめた。核のない世界を「究極の目標」と位置付けて、「安全が損なわれない形で、現実的で実践的な責任あるアプローチ」に関与すると確認した。

ウクライナに軍事侵攻を続けるロシアに対して「核兵器の使用の威嚇、いかなる使用も許されない」と訴えた。核拡散防止条約(NPT)体制の堅持も提唱した。

被爆地・広島で開催されたことで、核を保有する米英仏を含むG7首脳やグローバルサウスのリーダーたちが揃っての原爆資料館訪問が実現した。ジョー・バイデン米大統領は、「核戦争の破壊的な現実と、平和構築のための努力を決して止めないという共同の責任を思い起こされた」と述べた。

また、リシ・スナク英首相は、子どもたちの遺品の三輪車や血だらけでボロボロの学生服を見たことを明かし、「深く心を揺さぶられた」「ここで起こったことを忘れてはならない」と語った。

要するに、G7広島サミットでは、G7首脳やグローバルサウスの指導者が一堂に会して、被爆の悲惨さを知った。彼らの生々しい発言が世界中に報道された初めての機会となった。これは、核廃絶の取り組みを劇的に変えるものになるはずだった。

その空気を一変させたのが、ウォロディミル・ゼレンスキー・ウクライナ大統領の電撃的な来日だ。G7広島サミット後半は、ウクライナ一色となったのだ。

ゼレンスキー大統領も、原爆資料館を見学した。世界が、ロシアによる核のどう喝にさらされている現状を念頭に、芳名録に「現代の世界に核による脅しの居場所はない」と記した。大統領は、被爆者とも対面し、被爆地の思いに寄り添った。

ゼレンスキー大統領は、G7首脳会議に参加し、各国に支援を訴えた。これを受けて、G7首脳はゼレンスキー氏との会合で軍事、財政などで「必要とされる限りの支援」を続けると約束した。

G7首脳会議では「ウクライナに関する共同文書」がまとめられた。ロシアへの輸出制限を「侵略に重要な全ての品目」に広げた。中国を念頭にした、ロシアへの武器供給の阻止も強調した。

さらに、ゼレンスキー大統領は、ロシアへの制裁に加わらない「グローバルサウス」を代表するナレンドラ・モディ・インド首相、ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ・ブラジル大統領も出席していたG7拡大会合でも、「力による一方的な現状変更」を許さないという認識を共有した。

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