まるで「ゼレンスキー劇場」の広島サミット“失敗”に気づかぬ岸田政権の大罪

2023.05.31
 

ウクライナ問題で「最強硬派」でなければならない日本

これに対して、「現状のままでの停戦」「領土割譲の妥協案」など断固として認められない、欧米よりも切羽詰まった立場に追いやられているのが、実は日本だ。

日本は今、中国の軍事力の急激な拡大、そして台湾侵攻・尖閣諸島侵攻の懸念、北朝鮮の核ミサイル開発という安全保障上の重大なリスクを抱えている。

そうした状況下では、たとえウクライナ問題の解決に向けた手段とはいえ、「力による一方的な現状変更」に屈する形での停戦や妥協案は絶対に容認しないという、揺るぎないスタンスを取らねばならない。

もし日本が中途半端な姿勢を示し、これらの譲歩案を少しでも認めたら、中国が理屈をつけて台湾・尖閣に侵攻してくる可能性はゼロではない。侵略を試みる国が、屁理屈を弄(ろう)して侵略を正当化する余地を、絶対に与えてはならないのだ。

つまり、ロシアによる「力による一方的な現状変更」に屈した譲歩案を認めないことは、単にウクライナ紛争に対する日本の立場を示すこと以上の意義がある。他国に日本の領土を侵され、国民の命を奪うことを防ぐ「安全保障政策」そのものだからである。

日本は国際社会において“穏健そうな国”とのイメージを持たれがちかもしれない。だがウクライナ問題においては、ウクライナの徹底抗戦と領土の回復を、どの国よりも強く支持する「最強硬派」でなければならない。

だが、日本の苦しい立場に、欧米は関心が薄いだろう。端的に言えば、欧米は中国から遠いのだ。

ウクライナ戦争が、ロシアの「力による一方的な現状変更」を容認する形で終結しても、それが台湾有事に波及する懸念に関心を持つことはない。米国とて、台湾有事にどこまで関与する気があるのかは不透明だ。その時、日本は孤立する。

欧米も中国も新興国も、ウクライナ戦争の「和平」に一挙に動く時が来るのかもしれない。その時、唯一の被爆国であり、平和国家であるはずの日本だけが「徹底抗戦」を叫び続ける。そのような厳しい状況に置かれかねない日本の現実がある。岸田首相はどこまでそのことを理解しているのだろうか。

image by: 首相官邸

上久保誠人

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

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