2つ目の原因は、更にその奥にある問題です。
日本の社会は、集団主義から個人主義へと大きく様変わりしています。20世紀までは強固だった、会社、学校、家族といった集団への帰属が弱くなり、個々人が悪く言えばバラバラになっており、その一方で、「お一人様」の自由を楽しむというカルチャーも出てきました。
そのこと事態は時代の趨勢だと思います。ですが、問題は、バラバラになった個人と個人が接点を持つと、そこにどうしても「上下関係」が生まれてしまうということです。
昭和の時代のように「年長者であれば自動的にリスペクトして欲しい」という勝手な人はまだまだいます。その一方で、「カネを払う」側は偉いので、「カネを受け取る」側に対して全人格的な服従を要求できるという、勝手な権力行使はむしろ強くなっているようにも見受けられます。
その延長では、「人助けをする」のは偉くて、「人に助けてもらう」のは引け目を感じるというような「上下関係」もあります。
つまり、日本の場合は個人はバラバラであっても、そのバラバラな個人が別のバラバラな個人と関係を持った際には、そこには「関係性」がどうしても生じるし、その「関係性」は多くの場合、対等ではないし、またその対等ではないということの理解が、当事者双方で異なるという場合もあります。
本来は、個人主義が生まれて、個人が帰属集団から自立して行くというのは、個人が誰にも依存しない、つまり誰にも支配されないし、支配もしないという「絶対的な対等性」を実現することで、個人の自立へ向かうのがスムーズだと思います。
ところが、日本の場合はどうしても「他者との接点」が生まれると、そこには「関係性」が生じ、その関係性は「上下関係」であって、支配非支配という権力構造を伴うという流れが断ち切れないのです。
これは「人助け」の根幹の部分を不可能にしていると思います。
人を助けるというのは、自分が偉いことを誇示するためではなく、困っている人はお互い様として助けるだけのことです。また、人に助けられるというのは、その人の支配に屈するのではなく、対等の関係として好意を受け取るに過ぎません。
この大事な原理原則が、日本社会では確立していないのです。これでは人助けをすることも、人に助けられることも不可能です。
とにかく、初対面同士の日本語が壊れていること、個人がバラバラのくせに接点があると上下関係を伴う関係性のメカニズムが勝手に起動してしまうこと、この2つの問題が、日本社会における「人助け」を難しくしています。こうした状況の全体は一つの「社会苦」であると思います。解決の道筋を、全員で考えていくべき問題と思います。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2023年7月18日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
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