回収された木原氏が警察の捜査に圧力をかけた証拠
Z氏が誰なのかについて佐藤氏は語っていない。しかし、Z氏が事件当日、現場に行ったこと、その後、大塚署から連絡があって出向いたことなどを文春の記者が直接会って確認している。また、2018年10月9日、警視庁捜査一課が、東京・豊島区の木原氏の自宅だけではなく、X子さんの両親が住む愛知県の実家を家宅捜索したことも明らかになっている。そのあたりから推測するしかない。
ただし、捜査本部全体としてはZ氏ではなくX子さんを実行犯とする見方が大勢を占めていたと佐藤氏は言う。当然のことながら、木原氏もX子さんがターゲットにされていると思っていただろう。
佐藤氏は10月9日から24日まで、X子さんを取り調べた。しかし10月下旬になって、上司である佐和田立雄管理官(当時)から、突然の宣告を受けた。
「明日で全て終わりだ」。臨時国会召集日の10月24日までに取り調べを終わらせろと木原氏が捜査幹部に話したとは聞いていたが、国会が終わったら捜査を再開できるものと佐藤氏は思っていた。ところが、ほんとうに終わってしまったのである。
佐藤氏は遺族の気持を推しはかってこう言う。
「異常な終わり方だった。終わるというのは、自殺と判断して理由を遺族に説明するか、他殺なら犯人を捕まえるかしかない。遺族に何の説明もなく、自然消滅のような形にしておいて、今になって事件性はない、自殺だったといわれても、遺族が納得できるわけはない」
佐藤氏が「事実無根」のことを言っているとは、とうてい思えない。警察の公式見解との違いは、具体的な説明があることだ。
ともあれ、遺族や取り調べた元刑事が記者会見し、新聞にも短くはあるが関連記事が載るようになってきた。国会も動きだしている。立憲民主党が7月31日、木原官房副長官に対し、警察関係者との接触などについて公開質問状を提出、8月1日に警察庁や内閣官房へのヒアリングを行ったのはその一例だ。
立憲の公開質問状に対し、木原氏は「週刊文春を刑事告訴した」と強気の姿勢を崩さないが、徐々に、木原官房副長官に説明を求めるプレッシャーが強まっているのは確かだ。
文春の記事によると、警視庁から自宅へ帰るタクシーのなかで、木原氏が「俺が手を回しておいたから心配すんな。刑事の話には乗るなよ。これは絶対言っちゃだめだぞ」などとX子さんに話す場面が、捜査員の回収したドライブレコーダーに記録されていた。2018年当時、自民党政調会の副会長であり、情報調査局長でもあった木原氏が警察の捜査に圧力をかけたのかどうかが問題になっているのだ。岸田政権として、これからも“スルー”していくつもりなのだろうか。
今後、安田さんの遺族が被疑者不詳のまま殺人容疑で刑事告訴することも考えられ、木原氏がこのままメディアから逃げていては、岸田政権にとって、マイナスイメージがますます膨らんでいく恐れがある。
自民党と連立を組む公明党の山口代表は「捜査機関でしっかり説明を尽くしていただきたい」「木原氏が疑念を持たれないよう、また本来の職務にしっかり取り組めるよう政府として整えてほしい」と注文をつけた。与党のなかでも、説明を求める声が強くなりつつあることがわかる。
「木原副長官から事実無根だと聞いている」と木で鼻をくくったような言い方をしていた松野官房長官が、木原氏が説明する機会を設けるかどうかを問われ「木原氏の判断かと思う」とやや柔軟な姿勢に変わってきたのは、そのせいかもしれない。
岸田首相が最も頼りとする側近が、政権の自爆装置となりうるような重大疑惑を抱えているのである。ここは、岸田首相自身の見識と判断が問われるところではないか。
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