ファミコン互換機「小覇王」で大成功、中国オタク文化の礎にも
1961年生まれの段永平は、文化大革命に翻弄され悲惨な子ども時代を送りました。しかし、1977年に中国で全国統一入試試験が復活します。これは科挙と同じように、一発試験の点数だけで進学できる学校を決めるもの。段永平はこの一発逆転のチャンスを活かして、一浪後、名門校の浙江大学に進学します。
卒業後はいくつかの製造系の企業に勤めた後、日華電子というテレビゲームを製造している企業の工場長となりました。ここから、段永平の快進撃が始まります。
日華電子のテレビゲームはまったく売れませんでした。なぜなら、本体の中に10程度のゲームを内蔵しているだけで、それ以外のゲームは遊べないからです。1983年には、日本で任天堂がファミコンを発売していて、こちらはカセットさえ変えればいろいろなゲームが楽しめるというものでした。
段永平は中国でファミコンを発売したら売れると直感しました。しかし、任天堂がファミコンの製造を許可してくれるわけがありません。勝手にファミコンを製造して販売すれば、後々、任天堂から訴えられることは確実です。
そこで、台湾の普沢(プーザー、ビット)というメーカーに目をつけました。この企業は怖いもの知らずなのか、堂々とファミコンの互換機「創造者」を製造して販売していたのです。そこで、段永平は、直接ファミコン互換機を製造するのではなく、普沢とライセンス契約を結び、創造者の互換機を発売するという仕組みで、ファミコン互換機を製造販売します。任天堂が法的処置を取るのは、普沢であって、自分たちはライセンス生産しているだけだ、私たちもだまされましたと抗弁できるからです。
実際のライセンス契約は、香港の企業を間に挟んだ形であるので、任天堂が普沢から香港企業をたどって、日華電子までたどりつくのは難しいだろうという計算もありました。
その後、香港企業とライセンス契約をめぐって揉め事が起こり、契約を破棄し、日華電子は、創造者互換機に独自の工夫を加えた新製品「小覇王」の製造販売を1989年に始めます。これが売れました。すると、今度は無数の企業が勝手に許可もなく小覇王互換機を製造しはじめますが、日華電子としては自分も問題のあるビジネスをしている手前、他企業を訴えるわけにもいきません。このような無許可互換機まで含めると、任天堂のファミコンよりも売れたという話まであります。小覇王は、家庭用ゲーム機の代名詞にもなり、売れに売れました。
ところが、1993年に売れ行きが頭打ちとなりました。原因を調べると、小覇王を使っているのは子どもたちですが、お金を出すのは親たちです。その親の中で、小覇王を買うと、子どもが朝から晩までゲームばかりして、勉強をまったくしなくなったという不満の声が高まっていたのです。
そこで、小覇王にキーボードをつけて、学習ソフトを開発し、「英語やプログラミングが学べる学習機。息抜きにゲームができる」という建て付けでの販売を始めました。
この小覇王で育った子どもたちは、中国の第1世代のオタクとなりました。bilibili(ビリビリ)の陳睿(チェン・ルイ)CEOなどが小覇王世代であることで有名です。
このように段永平には、後の世代に大きな影響を与える小覇王を製造販売したという功績があるのですが、それだけではありません。もうひとつは――
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