より紛争を激化させる方向に進む国際社会
国連および国連安保理が機能していない現状を受けて、各国・各地域は、国連に図ることなく、自ら“気の合う仲間”と“問題解決”に乗り出す傾向が強まっていますが、どうしてもその対応は公平とは言えないため、より紛争を激化させる方向に進んでいます。
私も調停に携わったナゴルノカラバフ紛争についても、今週、アゼルバイジャン側からアルメニア人勢力に対する攻撃を行い、あっという間にナゴルノカラバフにおける実効的な支配を確立しましたが、本件の解決に際し、国連の姿は全くなく、実質的にはロシア軍の平和維持軍が両国の仲介をする形で停戦に導いています。
ただこのナゴルノカラバフでの武力衝突におけるロシアの平和維持軍の仲介の背後には、現在の国際情勢を映し出す特徴が見え隠れしています。
先のナゴルノカラバフ紛争の際には、ロシアは軍事同盟に基づき、アルメニアの後ろ盾としての立場を取り、停戦協議においては、アゼルバイジャン側の後ろ盾であるトルコ政府と直接協議の上、紛争を収めたという経緯がありますが、今回は、アルメニア政府を説得し、アゼルバイジャン側が求めるアルメニア人勢力の武装解除を飲ませる以外に方法はなく、実質的にはアゼルバイジャン側の全面的勝利のアレンジをしたことになります。
これにより、地域におけるロシアの影響力の大きな低下が明らかになり、頼る相手がいなくなったアルメニア政府のパシニャン首相としては、取り急ぎ、アゼルバイジャン側の停戦条件を呑み、急ぎ新たな後ろ盾を探す必要に駆られています。
国内からの非難を受け、「無計画な強硬措置に出るべきではない。ただし、攻撃を受けた場合には、軍事的な対抗措置を取ることを排除しない」という発言をし、争いを避けようとしているように見えます。
しかし、現在、あまり報じられていませんが、アルメニア国内ではパシニャンは弱腰だと非難し、退陣を要請するような事態に発展しています。
今年7月に米軍と合同軍事演習を行い、アゼルバイジャン側への対抗をしようと目論んでいたようですが、これがロシアとトルコを刺激し、パシニャン政権に圧力をかけて欧米への接近を一時的に停止したため、見捨てられたと感じたナゴルノカラバフにアルメニア人勢力が一方的に作ったステパナケルト市を中心とする“ナゴルノカラバフ共和国”の構成員が蜂起し、それを好機ととらえたアゼルバイジャン軍が一気に“制圧”にあたったというのが、どうもストーリーのようです。
このような状況に本来ならば国連安保理が乗り出し、何らかの調停案を提示するのですが、今回も“地域における解決”という形で、国連の出番は与えられないままという状況になっています。
そしてこれまでであれば、ここでロシアが乗り込んできて紛争を“解決”するのですが、ロシアはウクライナへの侵攻を機に、遠くの友人は増えるものの、自らが裏庭と呼ぶ近隣諸国の支持を失い、次第に影響力を失っています(そしてそこに滑り込んでくるのが、中国とトルコです)。
この状況は実はウクライナ情勢にも大きな影響を与えることになっています。
先述の通り、ロシアは対ウクライナではまだ軍事的には優勢を保っているという分析が多いのですが、これが全世界的なレベルで見てみると、ウクライナへの侵攻で消耗するがゆえに、近隣諸国への差配にまで手が回らず、ロシアがもっとも嫌う欧米諸国がどんどん影響力を強めるという状況になっています。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ









