失意の下に帰国することになる可能性が高いゼレンスキー
その両方に上手に加わるのがグローバルサウスの国々ですが、決して大きな2陣営に染まりきることなく、別の勢力圏を構成しています。
EIUのデータによると1980年代はG7全体で世界のGDPの約6割を占め、国際情勢に大きな影響力を誇っていましたが、2020年代に入り、その割合は3割を割り込み、グローバルサウスの国々の著しい成長と発展により、国際社会においてG7がごり押しできる環境は消滅しつつあります。
まだ圧倒的な軍事力は存在するものの、ロシアによるウクライナ侵攻を真っ向から否定し非難する立場を取る以上、その圧倒的な軍事力にものを言わせて何かを強要する構図は選択できなくなっています。
この力のバランスの大きな変化と移行により、国際社会は分断されていますし、これまで散々欧米に押さえつけられてきた“その他大勢”が今、国際情勢のパワースポットと化して、国際情勢の趨勢を左右するまでになってきています。
その顕著な例が見られるのが、国連における各国の発言力です。ちょうどロシアによるウクライナ侵攻以降、国連安保理が完全に分裂し、機能不全に陥っている中、インドやトルコ、ブラジル、サウジアラビア、南アフリカなどの影響力が高まり、それぞれが属する地域の勢力圏を率いて、地域ならではのニーズを実現すべく、外交的な駆け引きを主導し始めています。
いくらアメリカや欧州各国が対ロ制裁を訴えかけても、これらの地域に属する国々は、ロシアによるウクライナ侵攻は非難するものの、欧米主導の制裁には与しないという外交姿勢が成立していますので、想像以上に対ロ制裁の輪が広まらず、代わりに実利に基づいた制裁逃れと穴づくりが活発になるという図式になってきています。
ロシアは孤立し、プーチン大統領もかつてのような神通力が効かなくなってきていると言われていますが、それはウクライナとゼレンスキー大統領にも同じことが言える状況になってきています。
今回の国連総会での一般討論演説の際、総会議場がガラガラだったことや、ゼレンスキー大統領が勤しんだ2国間会合も聞く限りでは不発になり、冒頭のバルバドスの首相の言葉ではないですが、「ウクライナが我々の発展を阻み、我々の問題を悪化させている」という恨み節を浴びせられるケースもあったと聞いています。
また一般討論演説でウクライナ産の穀物の流通を停止する決定をしたポーランド政府を名指しで非難してしまったことで、ポーランド政府が激怒し、今後、一切ウクライナに武器供与をしないと公言するような事態に陥ってしまいました。
実は、ゼレンスキー大統領の失言はただのトリガーであり、すでにポーランド国内で進んでいる対ウクライナ避難民に対する特別扱いの停止や国内の農業保護の政策の強化などとともに、ウクライナ支援よりも自国の安全保障環境の充実に舵を切ったポーランド政府の決断が背後にあります。
あくまでも今回の事件は、なかなかウクライナ切りを決断できなかったモラヴィツキ─首相の背中を押しただけに過ぎませんが、これでNATOおよびEUにおける対ウクライナ支援の網の一端、それも最前線で無視できない綻びが生じることになりました。
恐らく同じようなことは今後、ドミノ倒しのように中東欧諸国で起きるのではないかと思われます。
そうなると、ウクライナの頼みの綱はアメリカと西欧諸国となりますが、ワシントンDCで待ち受けるアメリカ政府関係者と議会関係者は、膨らみ続ける対ウクライナ支援の延長に及び腰と言われており、特に来年の大統領選挙の行方に響くとの予想が高まってきていることもあって、ゼレンスキー大統領は期待通りの結果を得るどころか、失意の下、キーウに帰還することになる可能性が高いと思われます。
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