「強気のご指南パフォーマンス」の代償
だが、翌日にどんでん返しが待っていた。「TBS NEWS DIG」によると、大演説の翌日、世耕氏は岸田派の幹部のもとを訪れ、平謝りしていたというのである。岸田首相が激怒した情報が、官邸から伝わってきたのだろう。
世耕氏は記者会見でこの件について問われ、「全く事実ではない」と否定した。だが一方で、「エールを送る趣旨だという話をした」とも言っており、要するに岸田派幹部に会って言い訳をしたことは間違いないようだ。
あたかも世耕氏が反旗を翻したかのごとく報じるメディアもあったが、この腰砕けぶりをみても、それほどたいそうな決意を抱いた演説ではなかったことがわかる。先述したように、世耕氏はリーダー像を演出する「広報技術」とやらをアピールし、自民党における存在感を際立たせたいだけなのである。
他人に振り付けをすることはできても、自分が世間からどう見えるかを客観的に把握するのは難しい。目立ちたがり屋が、岸田首相のお粗末な政権運営を利用して、強気のご指南パフォーマンスにおよんだものの、賢人ぶったキザな言い回しが鼻について、党内での評判ははかばかしくないという状況だろう。結局、メディア対策には一家言を持っていても、知識の自慢をするのが関の山なのだ。
内閣支持率が下がる一方の岸田政権。国会の代表質問で身内になじられるのも末期現象かと思えるが、実のところは、党内から岸田おろしの風が吹いているわけでもなく、政局は奇妙な均衡を保っている。自民党内には岸田首相の強力なライバルが見あたらず、野党にしてみれば、岸田首相のままのほうが選挙を戦いやすいということもあるのだろう。
だが、今のような政治でいいわけがない。本質的な問題は、あらゆる政策が既得利権を温存する弥縫策であることだ。そのために根本的な課題解決につながらず、国の将来が見通せないまま不安が広がっている。世耕氏をはじめ自民党で総理候補と目されている顔ぶれを思い浮かべ、リーダーたりうるかを想像すると、さらに暗澹たる気分になる。
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