汚職撲滅という「反腐敗」を利用。習近平が“徹底的な破壊”を呼びかける「壁」とは

 

習政権が反腐敗を利用し破壊を呼びかける「抵抗の壁」

上海の衛星テレビ・東方衛視の番組『東方新聞』は、11月1日の放送で、債務リスクにフォーカス。前回の第5回会議(2017年に開催)と比較し、「(前回は)地方の債務について、『地方政府の債務増加を厳しく抑え、責任を徹底追及する』とだけ記していたのだが、今回の会議では、『債務増加の抑制に加え、債務の解消』という一言が加えられた」と報じた。

地方債務がこれ以上増えないようにするという段階から、債務を整理してゆくことがきちんと打ち出されたのだが、これは要するに「債務が解消されるのと同時に新規債務が増加すること防ぐこと」の意味だという。

番組に登場した専門家は、「(地方債務の整理とは)何のための債務だったのか。その融資は本来の目的を達成できたのか。精査した結果が悪ければ、その資金は元々どのようにもたらされたのかを調べなければならない。金融システムの抜け穴の問題も重要だ。メカニズムの構築では、そういった問題の発生源をきちんと突き止め、金融制度、金融監督を全面的に強化すべき」(張立群国務院発展研究中心研究院)だと指摘した。

あたかも規律検査の話題のように聞こえるのは、整理ではなく整頓を意味しているからだ。

同じように会議を取上げた中国中央テレビ(CCTV)『朝間天下』(10月2日)は、五つの方針のうち包摂金融(インクルーシブ・ファイナンス)に注目。番組のなかで「包摂金融を推進し、とくに農家や個人事業者への取り組みを強化」と語った農業銀行責任者の言葉を紹介。同時に中国の零細企業に対する融資残高が5年連続で25%を上回って伸びていると強調した。

中国がこうした報道をするのは、現実には中小零細企業への融資に高いハードルがあり、滞っている場合が多い。党は「その壁を壊せ」と呼び掛けているのだ。

農村、中小零細企業の育成につながる「普恵金融」については、10月12日にも国務院がわざわざ「普恵金融の質の高い発展の推進に関する実施意見」を出している。背景に「政策不出中南海」(政策が地方に向かうたびに捻じ曲がる)問題があることをうかがわせるのだ。

実は冒頭の話題はここにつながる。会議で打ち出された方針を貫くためには、金融界に蔓延る「抵抗の壁」を破壊しなければならない。習政権が利用するのが反腐敗なのだ。

前述したCNAが伝えたように、中国は「2021年末から金融業界への取り締まりを強化」し、その勢いは「今年に入って少なくとも108人の銀行関係者が取り調べを受けた」というほど強烈だ。

かつて習近平は国有企業改革、軍事改革の前に規律検査委員会を総動員して徹底的に汚職を取り締まり、組織の抵抗力を奪った。

つまり習政権はいま、何としても党中央が望む方向に資金を流したいのである。

経済の荒治療の一方では推進力の確保も進められている。

習政権はいま経済のけん引役として再び上海・長江デルタの力を頼りにし始めたようだ。長江デルタ発展である。これは広東・香港・マカオグレートベイエリア粤港澳大湾区)計画、京津冀(北京、天津、河北省)地域の共同発展と並んで中国経済の中長期の発展を支える巨大プロジェクトの一つだ。

10月12日、江西省南昌市で長江経済ベルトの質の高い発展のさらなる推進に関する座談会も招集された。

座談会には習近平を筆頭に党中央政治局常務委員から李強首相、序列5位の蔡奇、副総理の丁薛祥が参加。また経済担当を劉鶴から引き継いだ何立峰政治局委員とその部下の鄭柵潔発展改革委員会主任、さらに次世代のエース級とされる重慶市の袁家軍書記、江西省の尹弘書記、上海市の陳吉寧書記という豪華なメンバーが顔をそろえた。

表と裏からの大手術が始まっている──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年11月5日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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