タイ料理店が軒を連ねることから「タイタウン」と呼ばれている横浜市中区の繁華街で11月2日夜、日本人男性3人が刺され、うち1人が死亡する殺傷事件が発生した。警察は飲食店従業員でタイ国籍の男を逮捕。当初は「日本人グループとタイ人のグループによるトラブル」とだけ報じられていたが、事件の様子を撮影した動画が拡散するにつれ、逮捕されたタイ国籍の容疑者に同情の声が集まるようになった。さらに日本人被害者たちに対しては、「日本人として情けない」「自業自得」との厳しい批判が飛び交う事態に。事件当夜、いったい何が起きていたのだろうか。
日本人グループの「自転車倒し」で発生したトラブル
事件が起きたのは11月2日の夜7時半過ぎ。複数の報道によると、横浜市中区若葉町の通称「タイタウン」で、数名の日本人がタイ料理店前に置かれていた自転車を倒したことをきっかけに、タイ人店員たちとのトラブルに発展。激しいもみ合いの末に日本人3名がタイ人の一人に刃物で刺され病院に搬送されたが、このうちの1名が死亡、2名も重軽傷を負った。
この事件で神奈川県警伊勢佐木署は、タイ国籍で飲食店従業員のクワンキサロート・ルンロー容疑者を殺人の疑いで逮捕。調べに対してルンロー容疑者は、「お店の厨房にいたので何もわかりません」と容疑を否定している。
なお、被害者の身元等の情報は現時点(11月7日12時現在)まで一切報道されていない。
拡散した「真実」が撮影された動画
上述の通り被害者に関する情報が不思議なほど流れてこないこの事件だが、以下のような動画は当初からメディアで報じられている。
事件の様子を視聴者が撮影したという動画を見る限り、数的優位を笠に日本人グループが一方的に暴力を振るい、そんな彼らをタイ人がなんとか止めようと試みていたことは明らかだ。
「日本人の恥」「自業自得」。SNSで飛び交う被害者への厳しい非難の声
この動画が拡散するや、ネット上には「日本人の恥」「これ日本人自業自得じゃん」「悪いのは全て日本人」「タイ人は不起訴処分の無罪放免で」といった、刺された日本人を非難し、タイ国籍の容疑者を同情する声が多数投稿された。
事情はどうあれ、刃物で他人を刺すという行為は許されるものではない。しかしながら、動画のような度を越した暴行を止めるためには、容疑者が刃物を手にするより他に方法がなかったこともまた事実だ。
容疑者の母国・タイではどう報じられたか
この事件、容疑者の母国タイでは「ヤクザの嫌がらせが原因」と報じられているという。以下のサイトに詳しいが、ここでも抜粋してお届けする。
● 【横浜タイタウン殺人事件】タイでは「仲間を助けるためヤクザに反撃」と報道、暴力被害に遭ったタイ料理店従業員の投稿も紹介
同サイトによると、タイのメディアは横浜の事件で日本人グループから暴行を受けたタイ人従業員の「彼らはヤクザで『タイ人が大嫌い、周辺のタイ料理レストランはすべて閉店しろ』などと暴言を吐き、暴力行為を行った」という内容のSNSへの投稿を紹介。「ヤクザに正義の鉄槌を下す」とセンセーショナルに伝えるメディアもあるという。
十徳ナイフを所持していただけで「有罪」の無茶苦茶な判決理由
一方、事件があった11月2日、ある報道がネット上で大きな注目を集めた。NHKが伝えた、外出中に十徳ナイフを所持していただけで「有罪」判決を受けた男性を追った記事だ。その判決理由が「あまりにも無茶苦茶だ」と話題になっているのだ。
十徳ナイフをかばんに入れて持ち歩いたとして、軽犯罪法違反の罪に問われた鮮魚店の店主
有罪判決に「正当な理由とは何なのか、誰も教えてくれない」
争点は十徳ナイフの所持が「正当な理由」にあたるかどうか
無罪が言い渡されたケースもあり、司法判断がわかれているhttps://t.co/mvAOjmd0Ar
— NHKニュース (@nhk_news) November 2, 2023
件の裁判所の判断は以下のとおりだ。
▼4、5年は仕事のためには使っておらず、日常生活で使っていても外出先ではなく自宅だった。
▼万が一、災害にあった際「こういう事態になったらこう使おう」などといった、具体的な想定をしておらず、災害の備えとしてナイフを携帯していたとはいえない。
▼地域防災マップに持ち出し用品の1つとして掲げているのは、災害時に道具の調達が難しい場合に、炊事などで使うことを想定していると考えられ、災害に備えて常時携帯することを推奨しているものではない。
その上でNHKのサイトでは、「『多機能な便利グッズだが、漠然とした目的で携帯することは犯罪を未然に防ぐための法の趣旨からみて相当とは言えない』などとして『正当な理由』にあたらないと結論づけた」と解説している。
“正当防衛”であってもナイフを使えば逮捕、護身のために「十徳ナイフ」を所持しているだけで有罪。はたして日本の司法は信頼に値するのだろうか? 今回逮捕されたタイ国籍の男性には、どうか「冷静な判決」が出ることを祈るしかない。