Evernoteとは何だったのか。文筆家が「気楽なメモツール」を総括

 

■楽に保存できる

「楽に保存できる」「デジタルの多様なデータをまとめられる」は、Evernoteで一番よかった点です。これは、現状もまだ他のツールの追従を許していません。

情報を保存したくなったら、まず何も考えずにcommand + nで新しいノートを作り、そこに書き留める。あるいは画像やファイルをドラッグする。それで「とりあえず」は保存できる。で、その後でタグづけするなり、ノートブックに移動するなどしておける。場合によっては、そのノートに合わせたノートブックを新しく作ったりもできる。非常に簡便です。

この簡便さが、Evernoteの圧倒的な魅力でしょう。

Evernoteの対抗馬であるNotionではなかなかそうはいきません。新しくデータを保存する場合は、それをページにするのか、データベースの項目にするのかということをまず考える必要があります。これが結構面倒くさい。

逆に言うと、Notionではすでに形を決めてあるデータを保存するのがすごく得意です。どんどん「流し込んでいけ」ます。それはそれで一つの魅力ではあるのですが、雑多な情報を次々と保存していきたい場合は、あまり小回りが利かないとも言えます。

この辺はどんなデータを、どんな目的で保存するのかを加味して判断する必要があるでしょう。

■情報の規格化

上記の話を、「情報の整理学」として整理しておくと、Evernoteにおいては「ノート」という情報の最小単位が設定されていて、それが情報の規格化に貢献しています。だから、情報を保存したくなったら、まずノートを作ればいいのです。

そのノートは「ノートブック」に所属するものですが、それはメタ情報でしかありません。ノートブックを決めなければノートが作れないということはなく、作った後にいくらでも移動の自由が利くものです。

同じことは、アウトライナーでも言えます。アウトライナーは一つの行(項目)が情報の最小単位であり、何かを記録したくなったら、改行して新しい項目を作ればそれでOKです。それをさらに展開したり、統合したりといった操作は可能ですが、ユーザーが考えるのは常に「項目」だけで済むのです。

Notionの場合は、ページとデータベースの二つの規格が存在しており、しかもデータベースの項目はデータベースを作ってからしか作成できません。何かを書き留めた後に、その項目を内包するデータベースを──一種の変換的に──作ることができないのです(少なくとも標準の操作では)。

もちろん「変換的に」作れないだけであって、単にメモだけしておいて、それを参照しながらデータベースを構築することはできるわけですから、所詮は手間の問題でしかありません。ただし、その手間の問題はバカにはできないものです。

特に「新しい情報を扱う頻度が多い」ほどその影響は強く出てくるでしょう。

■細かいあれこれ

最後はざっと見ておきます。

まず、「複数の分類軸を持つことができる」は強力です。ノートという規格化の単位は一つでも、ノートブック・スタック・タグという軸によってそれらをさまざまな切り口で串刺すことができます。

ただ、長年のデジタルノート経験からいって、大量のタグがあったところで人間には扱えません。むしろ、現代におけるタグの意味は「AIに対してコンテキストを明示する」という役割が一番適切でしょう。分類というよりは、セマンティックなメタ情報を付与するわけです。

その意味で、はじめからコンテキストを明示するために使っているScrapboxは先見性があると言えそうです。

次に「画像のOCR検索ができる」は、あまり知られていないかもしれない機能で、案外他のツールにはない機能です(でもって、これのせいで処理の重さが生まれていることもあります)。画像に含まれている文字列を対象に検索できるのは便利で、しかもプリントアウトされた書類であればOCRは高精度で拾ってくれます。

とは言え、これも画像を保存したときに適切にコンテキストを付与していればそういう検索自体が不要になるかもしれませんので、そこまで優先度は高くないでしょう。ちなみに、Scrapboxにファイルをアップロードすると、同じように検索できるようになります。これもあまり知られていません。

「ノートリンク機能がある」は間違いなく便利な機能ですが、現状のデジタルツールではほとんどのツールで付属している(Macのメモ帳にすらあります)機能なので、現状は特筆すべきものではなくなりました。「あって当然」な機能です。

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