Evernoteとは何だったのか。文筆家が「気楽なメモツール」を総括

 

■クラウド&ローカル

では、「良い点」についてもう少し見ていきます。

まず、「クラウドとローカルでデータを保存」ですが、Evernoteはクラウドツールとして登場しつつも、パソコン内にもデータを持つ形で当初は運用されていました。だから、ある日Evernoteのサーバーが吹っ飛んでも、自分のパソコン内のデータがある限り、Evernote内のデータは使えていたのです。

たとえば昔のバージョンではすべてのノートにIDが割り当てられ、そのID名のフォルダがパソコン内に作られて、そこにHTML、TEXT、使われている画像が保存されていました。ということは、最悪データベースにアクセスできなくても、そのフォルダ全体を保持しておけば、情報にアクセスできたのです。

一方で、NotionというツールはMacのアプリケーションでアクセスしても、その中身は「Notion専用ブラウザ」であり、データをMacの中に保持することをしません。だから、ある日Notionのサーバーが吹っ飛んだらユーザーからはデータにアクセスできなくなるのです。

その意味で、クラウドツール黎明期だったにもかかわらず(あるいは黎明期だからこそ)クラウドとローカルの二重保持という強固な体制をEvernoteは築いていて、それがユーザーの安心感にもつながっていた点があったのでしょう。

ちなみに現状のEvernoteは、ローカルにバックアップデータは持っていますが、ノートごとにフォルダを作る、というような無駄なことは一切やっていません。その意味で、情報があったとしてもクライアントツールが壊れると情報に触れなくなる可能性が出ています。

この点はちょっと残念ですが、むしろ昔の機能があったからこそ「動作の重さ」が生まれていたのでしょうから、その辺はトレードオフとして諦めるしかありません。

■保存と連携

次の「月ごとの保存領域が増えていく」は、その当時非常に斬新な感覚がしたものです。5年も10年も使っていくのだから、保存できる容量が心配になりますが、使えば使う分だけ広がっていくというのは未来方向に期待と安心感をもたらしてくれます。

現状でも、Dropboxなどでは5GBなら5GBと上限が決まっており、どれだけ使ってもその量が増えることはありません。デジタルツールは長く使えば使うほど、保存領域を使うのですからEvernoteのこのシステムは今でも魅力的だと言えるでしょう。

もちろん、無制限にいくらでも保存できるというのが一番ユーザーにとって「うれしい」わけですが、それでは企業活動が成立しないでしょう。その意味で、どこかで適切なバランスを見つける必要があり、Evernoteのシステムはそのバランスをうまく維持できていたし、今でもそれは言えるかと思います。

「APIがありサードパーティーアプリが豊富」は、ツールの用途が広いときほど重要です。Evernoteのサードパーティーアプリには、書き留めるだけのアプリもあれば、ランダムで表示するためだけのアプリもありました。Evernoteのノートをバックグランドにした日記ツールや、ブログとして公開するという珍しいツールもありました。

Evernoteを単体で考えるのではなく、サードパーティーアプリを含んだ一つの系として考えるやり方は、インターネットではうまくいくやり方の一つで、Evernoteは当初からそれを適切に運用していたかと思います。

しかし、振り返ってみると、そうしたサードパーティーアプリのうち、本当に役に立っていたのは数えるほどでしかありません。「面白いのは面白い」というものはたくさんあったものの、実用に耐えるものは少なかったのです。

おそらくそれは、APIでデータの連携できたとしても、Evernoteの機能そのものを変えることはできなかったからでしょう。その点は、現状のObsidianやLogseqを見てみればわかります。これらのツールで提供される「プラグイン」は、メインとなるツールそのものの機能を改造します。これは実用性において大きな貢献をもたらすでしょう。

この点を考えると、NotionはAPIを提供しているものの、「プラグイン」には至っていません。もちろん、ユーザー有志が機能的なページを作り、それをシェアしていることを考えるとユーザー的創造力は発揮されていると思いますが、メインの機能を上書きするものではない以上、どこかしらに限界があるのではないかとも思います。

またUpNoteは、URLスキームが実装されているだけなので、基本的にはツールをそのまま使うというやり方に限定されます。あまり「ハック」するツールではないわけです。

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