“静かな悲鳴”を聞け。「望まない妊娠」を誰にも相談できぬまま病院にも行けず嬰児を遺棄する日本の若い女性たち

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フランスやドイツで公的に認められている匿名出産をはじめ、アメリカや韓国などにも存在する、「望まない妊娠」等で生まれてきた命を守る取り組み。しかし日本では匿名出産を受け入れる施設はあるものの、公的な支援や補助はないのが現状です。そんな状況を取り上げているのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんはメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、危機的な少子高齢化に直面しているにも関わらず、生まれてくる命を守っていると言い難い日本社会の姿勢を疑問視。その上で、私たち国民が徹底的に議論すべき問題と考えるべき事柄を提示しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:大切な命を守るのは誰?

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

大切な命を守るのは誰?「望まぬ妊娠」若い女性たちの“静かな悲鳴”

日本が危機的な少子高齢化に直面していることを否定する人はいません。しかし一方で、生まれてきた大切な命を、「私」たちはきちんと守っているでしょうか。

NHKによると、2020年~23年の3年間に生まれたばかりの赤ちゃんが遺棄される事件は全国で40件以上にのぼっていることがわかりました。

その背後にあるのが「望まない妊娠」です。誰にも相談できないまま病院にも行けず、1人で出産し遺棄してしまうのです。

「もともと生理が不順で妊娠に気づいた時はどうすることもできなかった」
「妊娠を彼氏に伝えたら、連絡が途絶えてしまった」
「親を悲しませたくなくて言えないでいるうちに、時間が経ってしまった」
「経済的に病院に行く余裕がなかった。人生に絶望して一緒に死ぬことも考えた」

etc.etc…。

これらは望まぬ妊娠を支援する団体や病院に寄せられた、若い女性たちの“静かな悲鳴”です。欧米では匿名出産を認めていますが、日本では認めていません。むろん国も何もしていないわけではなく、22年9月、内密出産の手順や女性の身元情報に関するガイドラインを公表しました。しかし、法的な根拠がない中でのガイドラインですから、身元を明かすのが大原則。その結果、下手にSOSを出して自分の妊娠が家族などに知れるのを恐れ、孤立する女性があとを経ちません。

例えばフランスでは、1793年から「匿名出産」が公的に認められ、1993年には民法に明記されました。国籍や年齢に関係なく、病院は匿名出産を受け入れる義務が課されています。ドイツでも法律が整備され、2014年から全ての病院で匿名出産が可能になりました。費用も国が負担し、子どもを産んだ女性には「母親とならない選択」が与えられます。

また、アメリカでも Infant Safe Haven と呼ばれる制度があり、生後一定期間内の子どもであれば,匿名で病院、消防署、警察署等の職員に手渡すことが各州で認められています。

韓国でも、未婚女性らが身元を隠して医療機関で子どもを産める「保護出産」が7月から法的に認められます。政府の調査で病院に出産記録があるのに出生届が出ていない「消えた赤ちゃん」が少なくとも2,000人以上いる実態が明らかになり、未婚の母に対する根強い偏見などが母子の命を危険にさらしていることが顕在化。匿名で安全に出産できる制度の法制化につながったそうです。

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