米国が「核の傘を閉じる」と言い出したら日本に核を持てというシグナル
さて、近い将来、米国が、「もう核の傘は閉じたい。国防は自分でやれ」と言い出すような気がする。もし、そうなれば、それは日本に核を持てというシグナルだ。トランプ大統領が日本にとっての脅威となるなどと言う人もいるが、今後は誰が米国大統領になっても、最終的には、米国は自分たちで犠牲を払ってまでも日本を守ってくれることはないだろう。つまり、いずれ核の傘は閉じられる。ただ、その時、日本は中国や北朝鮮との緊張に耐え、今こそ真の独立国にならねばと思うのだろうか? 今のうちから心の準備だけは必要だ。
今すぐ日本で核保有論が盛り上がるとは思えないが、米国に頼ってばかりはいられないという認識は、急速に広がりつつある。また、岸田政権に対する国民の失望感も膨張する一方だ。だから、もし今、「日本も独自で国防を!」と声を上げる政治家が出現すれば、案外、これまでになく、世論はそちらに靡くかもしれない。
ただ、もし、そうなっても、日本人が有事の時に武器を持って立ち上がるとは思えないし、それはそれで良い。戦後70年の教育は暴力を否定してきたし、戦争忌避論はすでに我が国の根幹となっている。ただし、だからこそ、攻め込まれないための手段として、抑止力の重要性をより正確に認識する必要がある。また、核以外の抑止力も積極的に模索すべきだ。
一歩間違えれば自らが戦場に駆り出される若い人たちの間で、冷静な抑止力構築論が高まっていく可能性に期待している。
プロフィール:川口 マーン 惠美
作家。日本大学芸術学部音楽学科卒業。ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ドイツ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。ベストセラーになった『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)をはじめ主な著書に『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)、『復興の日本人論』(グッドブックス)、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)、『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)など著書多数。新著に、福井義高氏との対談をまとめた『優しい日本人が気づかない残酷な世界の本音』(ワニブックス)がある。
image by :六ヶ所再処理工場 Nife, CC BY-SA 3.0, ウィキメディア・コモンズ経由で