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小林製薬「紅麹」事件も安倍政権の悪しき遺産。カネだけでなく国民の命も奪うアベノミクスの亡霊

弊サイトでも既報のとおり、これまでに5名の方が亡くなるという事態となっている小林製薬の「紅麹サプリ」による健康被害。「機能性表示食品」として販売されていたサプリメントが健康を害するという最悪の状況となっていますが、その「機能性表示食品」の制度が生まれた裏にはキナ臭いと言わざるを得ない事情があったようです。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野さんが、同制度が「安倍政権の悪しき遺産」である理由を詳しく解説。「機能性表示食品」の野放図を広げた安倍氏の罪深さを指摘しています。

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※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:アベノミクス「規制緩和」路線の落とし子としての「機能性表示食品」

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

小林製薬「紅麹」事件とアベノミクスの浅からぬ関係

自民党の世も末かと思わせるほどの裏金隠匿システムの闇も、憲法9条をここまで傷つけられるのかの戦闘機輸出解禁も、少々の賃上げでは追いつかない円安と物価高も、今時この国で起きている鬱陶(うっとお)しいことや禍々(まがまが)しいことのほとんど全ては、安倍晋三政権の悪しき遺産なのだが、何と、小林製薬の「紅麹」事件を機に俄かに注目を集めている「機能性表示食品」の危うさという問題も、その1つである。

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国民のほとんどが知らない「機能性表示食品」の正体

「機能性」――という言葉からして既に官僚臭くて、国民にはすぐに意味が伝わりにくいが、要するに、体調を改善したり健康を増進したりする上で「効果・効能がある」ということである。従って「機能性表示食品」とは、そういう効果・効能があることを表示して販売することを許される食品である。

ここでまず、概念を整理しておこう。

「食品」には(1)「一般食品」と(2)「保健機能食品」とがある〔図1〕。

(1)は機能性=効果・効能を表示することができないが「栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品」などを謳うことができる。

(2)は機能性=効果・効能を表示することができ、その下に、

(2-1)特定保健用食品(トクホ)
(2-2)栄養機能食品
(2-3)機能性表示食品

――の3種がある。

(2-1)のトクホは、例えば「コレステロールの吸収を抑える」といった効果・効能についての科学的根拠を1件ずつ国が審査し消費者庁が許可したもの。1991年からこの制度が始まった。

(2-2)栄養機能食品は、各種のビタミンやミネラルなど既に広く科学的根拠が確認されている成分を錠剤化するなどしたもので、「亜鉛」「カルシウム」「ビタミンA」等々として販売されている。一定の基準を満たしていれば特に届出などは必要なく、機能性を表示することができ、2001年から導入された。しかし、この「栄養機能食品」と、上述(1)の中の「栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品」の表示とを区別して理解できる消費者は皆無であるに違いなく、この区分け自体が官僚的自己満足の表れでしかない。

それに対して(2-3)機能性表示食品とは、一応「科学的根拠に基づいた機能性」を満たしたものとして表示してよろしいということになっているものの、(2-1)トクホのように国が責任をもって審査し許可する訳ではなく、また(2-2)栄養機能食品のように科学的根拠が自明なものでもなく、その科学的根拠を主張するのはそれを販売しようとしている当の事業者自身だとされている。

7,000近い商品が世に氾濫する「機能性表示食品」

もちろん、一応はあれこれの評価基準を列記しているものの、トクホのように面倒なことを言わずに、事業者が書類上でそれなりにきちんとした申請を出せばどんどん認めましょうというのが根本趣旨。当然、審査が厳しく時間もかかるトクホよりも届出だけで済む「機能性表示食品」として売り出そうとする業者が増えるのは当然で、たちまちのうちにトクホの許可件数を凌駕し、すでに7,000件近い商品が世に氾濫している。

国民の健康の根幹に関わるこのような大切な領域で、なぜこのようないい加減な基準の溶解が行われたのか。

それはまさに、第2次安倍政権がアベノミクスの一環として断行した「規制緩和による経済成長」という新自由主義まがいの過(あやま)てる政策の目玉の1つがこれだったからであり、実際、安倍は、2013年6月の「成長戦略第3弾・規制改革実施計画」のスピーチで「トクホの認定を受けなければ効果を記載できないのでは金も時間もかかり、中小企業などのチャンスが閉ざされる」と宣言したのだった。

それに基づき13年12月、消費者庁長官の下に「食品の新たな機能性表示に関する検討会」が設けられ、座長に松澤佑次=大阪大学名誉教授/阪大病院院長/住友病院院長(当時)/同院名誉院長(現在)が就いた。

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安倍政権の「規制改革会議」に送り込まれたあの人物

この松澤は、日本の医療を蝕んでいる「自民党厚生族×厚生官僚×医師会×薬品業界」のドロドロの利権・癒着構造の真っ只中に居る人物で、この7年前の日本版「メタボリック・シンドローム」の概念・基準とそのための法制度を提唱したことで知られるが、その出鱈目さについては後述する。

恐らくこの松澤の推挙によるものと思われるが、彼が設計した「機能性食品」自由化を担う尖兵として安倍政権の内閣府「規制改革会議」の委員に送り込まれたのが、松澤より約20歳下の後輩である森下竜一=阪大寄附講座教授だった。森下の専門は遺伝子治療学・抗加齢医学で、寄附講座のスポンサーは第一製薬(当時、現在の第一三共)。そのお陰で40歳そこそこで教授の座を得たのは彼の商才の表れなのだろうが、彼はその商才を政界方面にも発揮し、第2次安倍政権が始動した2013年以後、現在に至るまでずっと、内閣府の健康・医療戦略推進本部ないし同事務局の「戦略参与」という御大層な肩書を維持している。

森下は、このような安倍政権との特別な関係を利用して、彼が2002年に創業していた大学発の医療ベンチャー「アンジェス」で世界に先駆けてコロナ感染症の治療薬の開発が可能であるかの大風呂敷を広げ、安倍も「世界の英知を結集することで治療薬などの開発を一気に加速したい。日本としてリーダーシップを発揮する」などと持ち上げて(2020年3月14日の会見)、それ以降、75億円もの厚労省補助金を降り注いだ。しかし同社は事業に失敗、22年9月には開発中止に追い込まれた。この醜聞については、マスコミは忖度して大きく取り上げなかったが、『月刊タイムス』22年2月号に山岡俊介が「アンジェスの予防薬に効果なし!? コロナ予防薬開発に疑惑浮上:製薬ベンチャーと安倍元首相、吉村大阪府知事との癒着疑惑」と書いた。

また、その吉村との関係から生じたもう1つの問題は、森下が大阪万博プロジェクトに絡み込み、2016年に「万博基本構想検討会」委員、19年に大阪府・市の「特別参与」、20年に大阪府・市の「特別顧問」と階段を上り、21年には「大阪万博パビリオン総合プロデューサー」に就任していること。このようにして、至る所に牢固たる「政官学業の癒着構造」が築かれて、国民不在の政策や行政が罷り通って行くのである。

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「メタボの罠」を仕掛けた松澤が製薬会社から得た8億3,800万円

さて、森下の阪大における大先輩である松澤佑次は、ウエスト周囲径の基準を作った日本肥満学会と、コレステロールの基準を定めている日本動脈硬化学会と、両方の理事長を長年にわたって務めた。その彼が提唱したのが、日本版「メタボリック・シンドローム」の基準である〔図2〕。

第1に、ウエスト周囲径が男性85センチ以上、女性90センチ以上だと内臓脂肪が100平方センチ以上を抱える「内臓脂肪型肥満」の疑いがあると判定される。

第2に、さらに次のうち2つに該当すればメタボ患者、1つであればその予備軍と判定される。

  1. 脂質(中性脂肪150以上、and/or、HDLコレステロールが40未満〔いずれもmg/dl〕
  2. 血圧(最大130以上、and/or、最小85以上〔mm/Hg〕)
  3. 血糖(110以上〔mg/dl〕)

これで行くと、中年以上の日本人男性の半数以上がメタボリック・シンドローム患者ということになり、本当なのかということで大きな議論を巻き起こした。とりわけ厳しい批判を浴びせたのは、医療統計学の専門家である大櫛陽一=東海大学教授(当時、現在は名誉教授)で、『メタボの罠』(角川新書、07年刊)の中でこの基準の一部は「捏造」と言われても仕方がないほど怪しい数値で、ウエスト周囲径、血圧、脂質、血糖の4つの項目とも根拠がなく、これだと中年以上の特に男性の半分ほどが「病人」に分類され「投薬」の対象となってしまうと警告した。私は当時、全てを任されていた東京FM系の全国ネットでの週イチ1時間のトーク番組に大櫛教授を数回お呼びして批判の砲列に加わった。

こんな出鱈目が出てくるのは、松澤が03年まで教授をしていた頃に大手製薬会社20社以上から6年間に計8億3,800万円もの寄付を受けていたからである。とりわけ三共(当時、現在の第一三共)は群を抜いて額が大きく、それは同社が「日本で最も売上の多いコレステロール低下薬(メバロチン)を製造・販売していた」からである(大櫛同書)。本来ならば厚労省は、こういう出鱈目を取り締まる立場にあるはずだが、「製薬企業の集合体である日本製薬団体連合会の代々の理事長ポストは、厚労省のキャリアの天下り先」となっているので、言いなりなのである。

「政官学業」に加えて「報」も問題で、こうした裏事情を知らないわけではないマスコミはその時に批判することを避けるばかりか太鼓持ちを演じ、NHKの『ためしてガッテン』から日テレの『ミヤネ屋』などワイド番組まで、こぞってこれを大宣伝し、国民を洗脳することに加担した。

こんな風だから、大櫛が最初から指摘していたように、健康な人までが病人扱いされるのでメタボ患者が増え続け〔図3〕、医療費は08年の約33兆円から21年の45兆円へ1.4倍近くも増えてしまう結果となった。

このメタボの出鱈目は小泉政権の末期、安倍が官房長官の時に始動し、第1次安倍政権が生まれる3カ月前の06年6月に衆院厚労委員会で野党の声を押しきって強行採決され、08年4月から制度化された。その時からの安倍と松澤の縁が、第2次安倍政権に至って安倍と森下の関係に発展し、その下で「機能性表示食品」の野放図が広がった――という安倍の罪深さを知っておくべきである。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年4月1日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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