ただ欧米諸国側には迅速に即効性のある武器を供与することは困難なようで、5月のロシアによる大攻勢でウクライナが総崩れになれば、ロシアにとって非常に有利な状況が出来上がることになり、戦争で決着するか、それともロシアの条件に従った“停戦”を受け入れることで、実質的にウクライナが消える可能性が出てきてしまいます。
それを見て、恐怖を一気に高めているのがスタン系の国々です。ウクライナの反転攻勢が始まった頃は対ロで強気な発言や態度が目立ったスタン系ですが、このところ“プーチンを怒らせたら、後で必ず報復される”という恐怖が高まっているようです。
ウクライナ戦争の“おかげで”軍事介入はしばらくないと思われますが、ロシアは政治的な介入・情報工作を行ってスタン系の国内政情を荒らしてくるのではないかと戦々恐々としています。
特にロシアと7,600キロメートルにわたって国境線を接し、人口の2割強がロシア系である地域最大の資源国カザフスタンは、一時期、ロシアと距離を置くスタンスをとっていましたが、ロシアが戦況優位になると再接近して、プーチン大統領の逆鱗に触れて基盤を失わないように躍起になっています。
昨年11月にはプーチン大統領がカザフスタンを訪問しましたが、その際、プーチン大統領が「カザフスタンとロシアは最も親密な同盟国だ」と発言したのは、実は「ロシアに対する配慮を決して忘れるなよ」というカザフスタンのトカレフ大統領への警告だったのではないかと考えられます。
ロシア、そしてプーチン大統領が周辺、特に旧ソ連の国々に対して発する恐怖は、ウクライナが敗北してしまうと、一気にユーラシア大陸全体に向けられることになりかねません。
まずはロシアと緊張関係にあるモルドバ(親欧米政権でEU加盟を目指しているが、国内に親ロシアの沿ドニエストル共和国を抱える)と南オセチアとアブハジア共和国を抱え、国交断絶中のジョージアをターゲットにし、両国で支配を取り戻しにかかると思われます。その後、スタン系を含む中央アジアと南コーカサスの掌握を狙い、旧ソ連圏を復活させることを目指すと思われます。
もしこれがうまく行き、新ソ連邦(プーチン帝国)が再興できれば、次は散々ロシアをコケにして、NATOの一員としてロシアに楯突く裏切り者のバルト三国をターゲットにしてとことん責め立てることになる可能性があります。
もちろん、ここでNATO憲章第5条が本当に発動されるか否かにとって結果に大きな差が出ますが、ウクライナでの戦いの行方は、ウクライナの将来はもちろん、ユーラシア大陸の未来図も大きく変え、世界の安定は著しく損なわれる恐れが高まると予想されます。
プーチン大統領とロシアが周辺に及ぼす恐怖の力を抑え込めなければ、ロシアの恐怖が覇権の拡大と、欧米の影響力の縮小に繋がりかねません。
イスラエルとハマスの終わりなき戦いと殺戮の応酬も、元をたどれば相互に対する非常に激しい恐怖心に端を発すると言えるかもしれません――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2024年4月5日号より一部抜粋。続きをお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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