岸田総理「電撃訪朝」では解決できぬ北朝鮮拉致問題の裏事情。横田めぐみさん安否で新たな動きも(有田芳生氏)

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「岸田総理が北朝鮮に電撃訪問か」先月マスコミを賑わせたニュースですが、その後北朝鮮側が態度を硬化させたことで、日本人拉致問題の解決は再び暗礁に乗りあげた感があります。北朝鮮外交を政権浮揚と解散選挙の手がかりにしたい岸田総理と、そんな思惑を見透かして日本を翻弄する金正恩総書記。『北朝鮮拉致問題の解決 膠着を破る鍵とは何か』(和田春樹 著、岩波書店)にも寄稿しているジャーナリストの有田芳生さんが、横田めぐみさんら被害者を救うために知っておくべき、拉致問題の現在地を詳しく解説します。(メルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』2024年4月5日号より)

岸田総理「電撃訪朝」説の出処

岸田総理が北朝鮮の平壌を電撃訪問するかもしれない。そんな情報が駆け巡ったのは3月初旬のことだ。

3月後半に日程を入れないで欲しい」と岸田総理が事務方に依頼したからである。

政治部記者などが緊迫したのは、昨年から日朝交渉の動きがあったからだ。2023年3月と5月に拉致対策本部の幹部が東南アジアの都市で北朝鮮関係者と秘密接触を行っていた。

日本側は岸田総理の訪朝と金正恩総書記との会談を実現するために、「総理直轄のハイレベル協議」を北朝鮮側に提案していた。岸田総理が2023年5月23日の拉致問題解決を求める国民集会で、北朝鮮側と接触していることを秘して、日本政府の方針を語ったのは、そんな伏線があった。

北朝鮮側はその2日後にパク・サンギル外務次官が声明を出した。この反応の早さは水面下接触の「成果」だった。

日本のメディアは声明にある「朝日両国が互いに会えない理由がない」という部分だけを過大に評価し、日朝首脳会談への期待を報じた。

しかし、その前段には「大局的姿勢で新しい決断を下し、関係改善の活路を模索しようとするなら」とある。しかもコメントの最後はこう締められている。「日本は、言葉ではなく実践の行動で問題解決の意思を示さなければならない」。

日本側にボールは投げられたのだ。

北朝鮮が見透かす、岸田総理の皮算用

それから約7か月後、2024年1月1日に能登半島で大地震が起きた。1月5日、金正恩総書記が岸田総理を「閣下」と表現してお見舞い電報を送った。きわめて異例のことだ。

さらに2月15日には金与正朝鮮労働党副部長が談話を発表、「拉致問題は解決済み」と従来の主張を繰り返し、拉致を障害にしないなら岸田総理の訪朝もありうるとした。

「個人的な所見」とされたが、北朝鮮の国家体制でそんなことがありえるはずもなく、そこには金正恩総書記の同意があったと見なければならない。

16日には林官房長官が北朝鮮の談話に留意するとした。北朝鮮側からの揺さぶりはさらに続く。

3月25日には再び金与正談話が出た。核心部分は2月15日談話を踏襲したものだが、注目するのは「最近も岸田首相が他の異なるルートを通じて可能な限り早いうちに」金正恩総書記に会いたいと伝えてきたとある。これまでの拉致対ルートではなく、外務省が動いたのだろう。

談話は「日本の実際の政治的決断」を促し、「単に首脳会談に乗り出すという心構え」を批判した。岸田総理が国内政治に日朝交渉を利用せんとしていることを見抜いているのだ。

それに対して林官房長官は25日の記者会見で「拉致問題が解決されたとの主張は全く受け入れられない」と答えた。

ここから北朝鮮側の異例な対応がはじまる。

26日に金与正副部長が再び談話を発表、「前提条件なしの日朝首脳会談」を北朝鮮側に要請してきたのは日本であることを強調し、こう結んだ。

「わが政府は、日本の態度を今いちど明白に把握したし、したがって結論は、日本側とのいかなる接触も、交渉も無視し、それを拒否するということである。朝日首脳会談は、われわれにとって関心事ではない」。

日朝間の異例な応酬。いま何が起きているのか

3月27日には林官房長官が記者会見で、これまでの発言を変化させ、「諸懸案の解決への政府方針はこれまで説明したとおりだ」と語った。

日本政府に対してさらに追い討ちがかけられる。28日に李龍男中国滞在朝鮮大使は、日本の北京大使館が北朝鮮大使館参事にEメールで接触を求めてきたことを明らかにし、北朝鮮政府は日本側の「いかなるレベルでも会うことはない」と談話を出した。

北朝鮮側の対応は終わらなかった。29日には崔善姫外相が、「われわれは、日本がいう、いわゆる『拉致問題』に関連して、解決してあげることもなければ、努力する義務もなく、またそのような意思も全くない」とし、「対話はわれわれの関心事ではなく」「日本のいかなる接触の試みも許さないであろう」とする談話を出した。

この一連の応酬をどう解釈すればいいだろうか。

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