命がけで挑んだ荒行。1300年間2人目の満行者はなにを思うのか

 

毎日夜中の11時半に起床すると、すぐに滝に入って身を清め、宿坊から階段で500段ほど上ったところにある参籠所で身支度を整えます。

左手に提灯、右手に杖を持ち、編笠を被り、熊よけの鈴を鳴らしながら、12時半にたった1人で1719メートル先の山頂に向かって歩いて行きます。 

山の中でいつも思い浮かぶのは故郷の母や祖母のことです。

「仙台にいる母ちゃんやばあちゃんは何をしてるだろうな」

返事、挨拶、礼儀、好き嫌いをなくすことなど、人として大切なことを教えてくれた母と祖母。

本当に厳しく育てられました。おかげで嫌なことがあっても感情を顔に出さなくなりました。

約束を守って嘘をついてはいけないという教えが大きな信用に繋がりました。 

そんな母ちゃんとばあちゃんを思い、日誌にこう書きました。

「母ちゃん、ばあちゃん、この世では俺ぐらいの子を持つ親は、もう孫もいるよね。

 朝早く起きて無事を祈ってくれたり苦労をかけたりすまないね。でも神さん、仏さんのために頑張ろうね。

 いつの日からこの道を歩み始めたのだろうか、母ちゃん、誰に聞いてもわからない。

 なぜなのかわからないけれども、今母ちゃんとばあちゃんと俺、何なんだろう。

 でも仏さんも羨むだろうと思うよ、この絆は。一緒に暮らしたい、みんなのように親孝行をしたい、でも今はできないんだ。

 ばあちゃん、母ちゃん、いつかきっと早くその日がくるように。」

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【著者】 致知出版社 【発行周期】 日刊

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