作詞家・なかにし礼と映画監督・篠田正浩は、なぜ俳句や短歌の「七五調」を嫌ったのか?

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日本人が自身の感情や目の前の情景などを書き記すときに好んで用いる七五調。万葉の時代から脈々と受け継がれる短歌と、そこから派生した俳句の七五調が、日本人の美意識や行儀良さを育んできたとする説もあります。そんな「七五調」を批判した人として、作家で作詞家のなかにし礼さんと映画監督の篠田正浩さんの名前を挙げるのは、著名人批判を七五調で展開することもある評論家の佐高信さんです。今回のメルマガ『佐高信の筆刀両断』では、雑誌『俳句界』で20年続いた佐高さんの連載対談内で語られた、上記お二人の「反七五調論」を「共鳴するものはある」と紹介しています。

七五調への警戒

『俳句界』の「佐高信の甘口でコンニチハ!」という連載対談が終わった。第1回のゲストが筑紫哲也で、およそ20年続いたから、200人を越える人に相手をしてもらったことになる。

北島三郎や都はるみなど演歌歌手も多かったが、ズーッと気になっていたのは作家のなかにし礼と映画監督の篠田正浩の七五調批判だった。詩人の金時鐘にも指摘された。

作詞家としても知られるなかにしは、歌詞を書く時、「七五調では書くまい」と決めたという。

「七五調にきれいに収まることで知られる日本人の精神の安定、美意識、行儀のよさ、収まることの粋な感じとか、そういうところから外れたところにある日本人の情緒、美しさ、共感が必ずあるはずだ」

そう思ったからだった。

端的に言えば、七五調では「革命」は歌えないということだろう。あるいは、七五調は革命を抑える働きをする。それに対して、シャンソンは革命の応援歌らしい。なかにしによれば、あのレーニンも革命が成功した時、「諸君!ワルツを踊ろう」と言ったくらい、ワルツというのは革命の応援のリズムであり、そうしたものがシャンソンの源流にはある。

そんななかにしが唯一好きな俳人は山頭火。芭蕉も蕪村も子規も優れた俳人だとは思うけれども、「僕の友だちではない」とか。そして、とりわけ好きな句として「分け入っても分け入っても青い山」を挙げた。

「俳句の七五調を壊し、力強くものを言う。そういう抵抗心を持たないと、日本の将来は暗いと思いますね」

篠田正浩にとっては、七五調は「終戦以前の日本の象徴」のようだった。軍国少年だった篠田にとって七五調は「天皇家へとつながる韻律」でもあり、戦後を迎えて篠田はまず、「七五調を捨てたい」と思った。

天皇家は「日本語の家元」であり、たとえば古今和歌集などの勅撰和歌集が担ってきた役割は大きい。日本文化は七五調によってつくられていると言っても過言ではないほど、日本文化の軸になっている。とはいえ、アウトサイダーの文芸だから、短歌よりは俳句の方が好きだという篠田は、蕪村に惹かれると言い、「辻堂に死せる人あり麦の秋」を挙げた。

川柳も七五調だが、鶴彬のそれは七五調を用いながら、七五調へのアイロニーがあり、七五調を壊す内容を盛っている。

七五調に浸りながら、なかにしや篠田の反七五調論にも共鳴する私は、やはり、なかなか七五調から離れられない。それで、たとえば最近は子規の「紫陽花や昨日の誠今日の嘘」といった句を小池百合子批判などに使っている。

そういえば、なかにしの作った「私、バカよね、おバカさんよね」という歌詞を、典型的なおバカの甘利明批判に利用した。伊集院静が師事していた甘利である。

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