居場所を求め刑務所に戻る」。刑務官が話してくれた現実
ところが、そんな私の心配をよそに受刑者全員が「はい」と答え、仕事をしたい理由を次のように答えました。
「仕事をしてお金を稼がないと、生活できない」
「仕事をして、自立したい」
「仕事をして、普通の生活をしたい」
「仕事をして、人を喜ばせたい」
……などなど。
返ってきた答えは、ごくごく普通のものでした。いったい私は何を恐れていたのか。
私は無意識に「私たちとは違う」と偏見をもち、無意識に「特別な人たち」と区別していたのです。
世間の受刑者への偏見が彼らの生きづらさの大きな要因になっていると、頭ではわかっていたはずなのに。私自身が、彼らを偏見のまなざしでみていたのです。実に情けないというか、しょうもないといいますか。深く深く反省しました。
保護司は「この無意識のまなざし」を持たない人たちです。そして、この無意識のまなざしに負けることなく、贖罪の心をもって改心した「人」と共に歩き、「社会の一員として生きていいんだ」と彼らが確信できるまで背中を押し続けます。
そんな温かい心を持つ人に「刃」が向けられてしまったという事実を「私」はどう受け止めればいいのか。
メディアは「保護司になり手がますます減ってしまう」ということばかりを報じていますが、改心した人を「受け入れる」社会になっているのでしょうか。
刑務所を出て保護観察の対象になった人を雇い、立ち直りを支援する「協力雇用主」の登録は全国で約2万4,000社ですが、実際に雇用しているのは約1,200社で、全体の5%程度です。
「刑期をおえて出所するときには『二度ともどってきません』と言う。その気持ちにウソはないと思います。でも、また戻ってくる。特に正月が近づくとアンパン一個盗んで、塀の中に戻ってくる。なんとか生活できるヤツも多いのに戻ってきちゃう。居場所を求め刑務所に戻る。これが現実なんです」
刑務官の方がこう話してくれました。
みなさんのご意見、ぜひお聞かせください。お待ちしています。
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