なぜプーチンは“時間稼ぎ”するのか?現れては消える「停戦協議に応じてもいい」の裏にチラつく真の思惑

 

すでに崩壊が囁かれる事態となっているNATO

ちなみに時折、現れては消える“停戦協議に応じてもいい”という提案は、当初からゼレンスキー大統領を相手にしておらず、アメリカの大統領(それがバイデンかトランプかは関係なく)に向けられており、「あくまでもロシアの条件を受け入れる場合のみ、停戦に応じる準備がある」と公然と発言し、それが受け入れられないことを分かっているがゆえに、さらなる時間稼ぎを行っています。

では何のための時間稼ぎなのか?

それはNATO諸国への心理的なプレッシャーと加盟国間の相互不信、そしてNATOの結束への疑念の増大です。

ウクライナ戦線を膠着させつつ、NATO加盟国にちょっかいをかけ、部分的な侵攻を通じて、性的な迫害などを通じてハラスメントを行い、その後、すぐに撤退して傷跡のみしっかりと残すという作戦を行うのではないかと、いろいろな話を総合してみています。

ターゲットとしてはバルト三国が最有力ですが、そこで「NATO憲章第5条によると、NATO加盟国への攻撃には集団的自衛権を発動するとあるが、果たしてNATOは一致団結して、ロシアに軍事的な報復を行うかを試す」狙いがあります。

結論から申し上げると、発動には全会一致が条件となりますが、ロシアとも良好な関係を持つトルコの存在や、プロ・プーチン大統領のハンガリー、不可侵を水面下で交渉しているという噂もあるポーランドなどが賛成を遅らせる恐れが懸念され、結局、対応・発動が著しく送れるか、発動が出来ないという事態に陥るものと思われますが、それはロシアに面する中東欧・北欧の加盟国に「NATOは困ってもすぐには助けに来ない」という疑念を生じさせ、軍事同盟としての結束を乱す一因になるものと思われます。

そうなればNATOは有名無実化し、結局は機能しない代物というレッテルが押されることになり、もしかしたら離脱する国が出てくるようなことも考えられます。

そうなるともうプーチン大統領とロシアの思うつぼで、本格的な戦争を仕掛けずとも、NATOの東進を止め、かつ押し戻し、スタン系の国々も取り込んだうえで、それが新ソビエト連邦なのかプーチン・ロシア帝国なのかわかりませんが、大ロシア帝国の再興に向かうこともあり得ます。

エストニアやリトアニアの軍統合参謀本部議長やフィンランド、スウェーデンなど新規加盟国の軍のトップもNATOが動かない場合の国家安全保障について独自の議論を始めているようで、すでにNATOの崩壊が囁かれる事態です。

欧州にとっても他人事では済まない露朝の接近

そしてその恐れを拡大させたのが、プーチン大統領の大きな譲歩によって起こり得た北朝鮮との同盟関係の構築の存在です。

経済・安全保障面での協力を包括的に行う戦略パートナーシップの締結で、ロシアは北朝鮮からウクライナ戦争継続に必要な弾薬と砲弾を獲得し、見返りに北朝鮮が喉から手が出るほど欲しいロケット・宇宙技術を供与することで、相互依存関係の強化に繋がります。

同時に有事の際に相互支援を誓う条約を締結したことで、ロシアに対するいかなる攻撃も、北朝鮮による攻撃対象となり、日米韓による北朝鮮に対する軍事的な行動はすべてロシアの反撃の対象になるという解釈になれば、アジア太平洋地域の安定にも直接的な懸念となります。

これで日米韓(特に日韓)は容易に北朝鮮に手を出せなくなるばかりか、ロシアを刺激することもできないことになりますが、同時に欧州地域における対ロ攻撃が北朝鮮による対欧州攻撃にも繋がりかねないという新しい懸念が生じることになります。

拡大解釈すると、これまでニュースで見て太平洋湾岸国(日本、米国など)への警告と考えてきたICBMや核開発問題の矢が、今後、欧州にも向いてくることになると考えられます。

実際の北朝鮮のロケット技術、特に弾道ミサイル技術のレベルは不明ですが、ロシアの手が加わることで技術開発は一気に向上し、かつ命中精度も上がると思われることから、露朝の接近は欧州にとっても、ウクライナにとっても他人事では済まない国家安全保障問題になると言えます。

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