韓国の脱北者団体による金正恩体制批判のビラ風船への対抗措置として、北朝鮮が5月下旬に開始した「汚物風船」の散布。その内容物について韓国メディアは「大便の類と推定される汚物」と伝えましたが、「人糞」である可能性は極めてゼロに近いようです。今回のメルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』では宮塚コリア研究所で専門研究員を務める新井田実志さんが、北朝鮮において人糞は資源であり人民に収集ノルマが課されているという事実を紹介。さらにかつて自身が中朝国境地帯で撮影した貴重な写真を披露しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:風船散布と“汚物”
※本記事は有料メルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』2024年6月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
まさか人糞をつけるとは…風船散布と“汚物”
5月28日夜から、北朝鮮は韓国に向けて多数の風船を散布した。翌朝、韓国メディアが「風船には大便の類と推定される汚物が封筒に入ってぶら下がっていた」と伝えるのを見て、目を疑った。風船の散布自体は金剛日・国防省副相(次官)が3日前の時点で、対北ビラ散布に対する報復として「紙屑と汚物」の散布を明言していたので驚きはなかったが、まさか人糞をつけるとは…。
結局、“汚物”の正体は動物の糞らしい。それもそのはず、北朝鮮において人糞は汚物に非ず、貴重な肥料なのである。「堆肥戦闘」と称される人糞収集は人民のノルマとなっており、北朝鮮工業の発展が華々しく宣伝されていた頃から変わるものではない。
対南“ゴミ風船”は6月2日に一時中断が発表されたものの、韓国の脱北者団体による対北ビラに反応する形で8日には再開されており、しばらくの間泥仕合が続きそうである。金与正・朝鮮労働党副部長は談話で皮肉たっぷりに「誠意の贈り物」と表現したことも記憶に新しいが、しかし北朝鮮分析の上では“贈り物”と言ってもいい側面が確かにある。ゴミは社会の実相を映し出す鏡であるからだ。
ここで我らが宮塚コリア研究所代表・宮塚利雄先生が訪朝時にゴミを探していた時の話に触れようと思ったら、既に産経新聞の黒田勝弘氏が宮塚先生の“偉業”と今回の“贈り物”とを結びつけて、記事にしていた。卓見である。
ナゾの超閉鎖国家・北朝鮮の実態を知るにはゴミは貴重な情報なのだ。当時、宮塚先生の研究熱心と鋭い感覚に感心したが、今回の風船のゴミも見方によっては貴重である。家畜のフンを分析すればエサなど北での飼育状況が分かる。
(6月8日産経新聞「ソウルからヨボセヨ 北朝鮮ゴミ物語」)
日本には、かなり以前から日本海岸に漂着する北朝鮮のゴミを収集し続けている民間の研究者がいる。時折メディアにも取り上げられるので、これに触発されたのか、韓国の大学教授が同様の研究をはじめて、昨年には大量の写真入りの本まで出版した。たかがゴミ、されどゴミなのである。
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