尾籠な話に戻るが、北朝鮮は長らく化学肥料の生産を宣伝してきた。当然、堆肥戦闘のことなど、公式報道では取り上げられることもなかったが、2022年頃から様子が変わっている。「自給肥料」という表現でそのことを隠さなくなっており、昨年1月13日の朝鮮中央通信は、農村に「自給肥料」を送るため平壌・金日成広場に集結したトラックの写真まで配信している。平壌のような都市の住民でも堆肥戦闘からは逃れられないのだ。以下は少々古い記述ではあるが、かの元工作員の証言である。
人糞を乾かして蒸し、餅のような形の肥料をつくって提出せよといわれました。農村では別に問題ないのですが、私が住んでいたアパートでは糞尿を集めるのが大変でした。ヨガン(瀬戸物でできたおまる)」に集めておいたりして……。糞尿車が来ると、家ごとにバケツを持って出て庭で乾かした糞尿を提出し、伝票を受けとります。
(趙甲済〔池田菊敏訳〕『金賢姫は告白する』〔徳間書店、1989年〕171頁)
このような光景は、外国人が北朝鮮を訪れたとしても目にすることはないのだろうが、実は10年ほど前、中朝国境地帯を訪れた際に某所で収集の様子を撮影したことがある。但し確証が持てなかったため、とあるジャーナリストに提供し、脱北者に確認してもらったところ「間違いない」との返事を頂戴した。私がその写真を撮影したところは現在、中国人民解放軍の管轄下に置かれ、民間人が立ち入りできなくなったと聞く。
先述の通り、北朝鮮当局も既に存在をオープンにしているので、「自給肥料」が積まれている様子を、今回読者の皆様にお目にかけようと思う。北朝鮮では「田植え戦闘」が終わる頃だが、今年も各地で大いに活用されたに相違ない。
(宮塚コリア研究所 専門研究員 新井田実志)
※本記事は有料メルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』2024年6月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。各月550円です。
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image by: 新井田実志