「暗殺」の可能性も含まれる3つ目の選択肢
3つ目は【自身が(プーチン大統領の要望通り)辞任する代わりに、ウクライナの存続をプーチン大統領に確約させる】という戦略ですが、「約束なんかしても、プーチン大統領はいつも反故にするじゃないか」という“現実”は横に置いておいても、ウクライナにとってあまり好ましい結果は生まないと考えます。
この選択肢を取る場合、先述のように、ザルジーニ氏が後任になりそうな予感ですが、停戦協議をして何らかの合意案を作る際、ほぼ確実にクリミア半島はロシアのコントロール下に置く状態が固定化され(ロシア領とするかは別だが、恐らく編入されることになる)、ロシアが一方的に編入したものの、まだ全域の支配を確立できていない東南4州全域の引き渡しをロシアに要求されることになります。
当初2014年ラインまで戻し、ウクライナを取り戻すという目標を掲げていた状況に比べると大きな後退になりますが、仮にこれでロシアの侵攻が終焉し、長きにわたった戦争に“終止符が打たれる”のであれば一考の価値はあるかもしれません。
もしかしたら、ゼレンスキー大統領にとっては、仮に大統領職を失っても、ストーリーの作り方によっては“ウクライナを救った英雄”といった評価を後世に残せるかもしれません(ただ、過去のケースから見て、プーチン大統領は決して彼を許さず、真偽のほどは分からない汚職問題がリークされて評判を失墜させたり、暗殺を試みたりするような気もします…)。
そうなると、ゼレンスキー大統領にとっては、この3つのどれも選びづらい状況が見えてきます。それに加え、先述の通り、まだ反攻の機会があると信じ切っているように見えるため、自身の保身のためかどうかは別として、やはり戦い続けることを選ぶのだと考えます。
大きく変化した核兵器の役割と使用の可能性に関する状況
今、プーチン大統領に戦争を停止するインセンティブが存在しないことから、ロシア・ウクライナ戦争は今後も長引き、膠着状態が続くことになりそうです。
しかし、戦況が膠着状態に陥る中、ロシアサイドでは気になる状況の変化も起きています。
それは核兵器の役割と使用の可能性に関する状況です。
複数の衛星データやグラウンド・サーベイランスの情報・分析結果を総合すると、ロシアの戦術核兵器の配備が進み、すでに臨戦態勢に入っている上に、具体的な作戦実行に向けた準備も進んでいると分析されています(配置の変更も行われている模様です)。
これまでにも何度も核兵器使用の脅しはプーチン大統領やその側近、特に強硬派の筆頭メドベージェフ氏などの口から出ていましたが、最近の動きはこれまでとはレベルが違うという専門家の分析があります。
理由の一つは、先述のように、実際の使用に向けた臨戦態勢が構築されているという情報分析が多方面から寄せられていること。そして、最近目立つようになってきたロシア軍における統制の乱れが、全体的な戦闘作戦対応能力を下げており、一向に目に見える成果が得られないことと、絶え間ない欧米諸国からのロシア批判にロシア政府や軍の幹部もうんざりしており、このあたりで一度状況を大きく変えたいという声が高まっていることも、「もしかしたら限定的であるかもしれないが、ロシアは核兵器を戦術上のオプションとして使用する気なのではないか」という分析に繋がる理由になっていると思われます。
核兵器と聞けば、私たち“日本人”にとっては悪魔の兵器以外何物でもないのですが(恐らくほかの国民にとっても同じだと信じますが)、アメリカにとってもロシアにとっても、【核兵器はあらゆる軍事的オプションの一つに過ぎず、(使うような状況が生まれないことを祈るが)使ってはいけない選択肢ではない】という認識の違いがあります。
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