IT業界の最大の関心事とも言えるAI戦略は、日本の通信各社においても将来を決定付け兼ねないものとして重要視されているようです。楽天の三木谷浩史会長は、グループのイベントで「AIの民主化」を進めていくと宣言。その描く形はどのようなものなのでしょうか?今回のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』では、ケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さんが、三木谷氏のビジョンを解説。楽天だからこその期待と、競合のソフトバンクやKDDIにあって楽天にないものを指摘し、各社のオンデバイスAIへの取り組みに注目しています。
楽天・三木谷会長が語る「モバイルとAIの民主化」──KDDI・高橋社長は「Pixelの発表会に寄ってくる」
楽天グループのイベント「Rakuten Optimism 2024」の基調講演に三木谷浩史会長が登壇。楽天モバイルとAIへの取り組みについて語られた。
契約者数が750万に迫ると言ったトピックはあったが、目新しい話は特になかった。ただ、三木谷会長として「携帯電話の民主化」を掲げてきた楽天モバイルを基盤にしつつ、次は「AIの民主化」として、あらゆる人がAIを使える社会を目指していく姿勢が示された。
「AIの民主化」に向けて、まずはデータでAI技術基盤を拡大しつつ、楽天グループ社内で活用。さらに「Rakuten AI」として社外にオープン化していくという。現在は楽天ポイントを軸とした楽天経済圏ではあるが、将来的には楽天ポイントに加え、楽天モバイルのユーザー、さらにアプリによるデータ蓄積、分析がAIによって可能になるようだ。
Rakuten AIにとってやはり他社にはない武器として効いているのが、楽天経済圏のデータ資産だろう。国内会員数1億超、ポイント発行数は2023年で6500億、70を超えるグループサービス、月間アクティブユーザ数4154万人と規模があり、こうしたユーザーのデータをAIで活用できれば、相当、面白いことができそうだ。
現状は、チャットによるユーザーサポートや買い物支援などがメインのようだが、よりネットショッピングをしやすい環境が整備される可能性は十分にあるだろう。
Rakuten AIには期待できる反面、いまの楽天モバイルに欠けているとするならば「デバイス」なのかも知れない。今年、「オンデバイスAI」が注目されているが、楽天グループには「Galaxy S24シリーズ」や「Galaxy Z Flip6」「Fold6」、Pixelシリーズなどがラインナップには無い状態だ。
いまのオンデバイスAIがやれることは限定的だが、いまから、ラインナップとして揃えておき、ユーザーを抱え込んでおくことは重要なのではないだろうか。せっかく、AIで差別化できるデータ、モバイルのネットワーク基盤を持っているのに、デバイスが欠けているのが残念だ。
その点、ソフトバンクやKDDIは、データセンターを強化しつつ、生成AI基盤を揃えるなど、着々ときたるAI時代に向けて準備を進めている。端末に関しても、オンデバイスAI対応機種を揃えるだけでなく、ソフトバンクの宮川潤一社長は「自分たちでAIスマホをつくりたい」と公言しているし、KDDIの高橋誠社長は「これからはオンデバイスのAIが大事になる。クラウドとオンデバイスはどういう比率で使えばいいのかが、結構奥が深い。ネットワークのコアとエッジ側のレイテンシーを非常に大事にする領域とオンデバイスAIとがどう組み合わせるかが差別化のポイントになってくる。オンデバイスのAIも少し見ていく必要があると思っている」として「再来週、グーグルの発表会に寄ってくる」と語っている。
キャリアとしてオンデバイスAIにどう取り組むのか。今後、数年間は各社で違いが出てきそうだ。
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image by: Guillaume Paumier, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons