地元支持者が他陣営に買収されることも防げない頼りのなさ
岸田文雄氏には、首相を務める資質がないということを、彼が首相に就任する前から、国民は何度も眼にしてきたと思う。
まず、「河井案里選挙違反事件」への対応があり得なかった。2019年7月、参議院議員選挙の広島選挙区で、立候補していた自民党の河井案里氏を当選させるために、その夫であり衆院議員であった河井克行氏が、案里氏と共謀して大規模な買収行為を行った。その結果、案里氏は当選した。
一方、選挙前の現職だった溝手顕正氏(自民党)は落選した。溝手氏は、当時党政調会長だった岸田氏の側近だった。元々、広島は岸田氏の地元だ。自民党広島県連は、溝手氏が所属する岸田派が多数を占めていた。ところが、安倍首相(当時)、菅義偉官房長官が河井氏を応援し、当選させるために、党本部から1億5,000万円を入金した。それに対して、溝手氏への入金は河井氏の10分の1のわずか1,500万円だった。
河井克行氏は、2019年3月下旬から8月上旬に広島県議や広島市議、地元首長ら計94人に案里氏への投票や票の取りまとめを依頼し、総額約2,570万円を提供したという。また、河井案里氏は、このうち5人に対する計170万円について夫の克行氏と共謀したという。
後に、二人は公職選挙法違反で逮捕された。河井夫妻が問題なのは言うまでもない。だが、私は、買収された広島県議、広島市議、地元首長らは、元々誰の支持者だったのかということが問題だと思う。
そのほとんどが、岸田首相の地元支持者に他ならないからだ。地元支持者が他の陣営に買収されることも防げない、側近の落選すら防げない、地元にすら軽く見られている人物に、首相が務まるわけがないと、多くの人が思ったはずだ。そのような人物が、バイデン、プーチン、習近平、モディ、エルドアンと、魑魅魍魎、百鬼夜行の国際社会で、日本の国益を守れるわけがないからだ。
総裁選で何度も見せた「負けっぷりの悪さ」
岸田首相は、自民党総裁選に何度も挑戦し、敗れてきた。その「負けっぷりの悪さ」も、首相の頼りないイメージにつながっているように思う。その「負けっぷり」は、かつての自民党であれば、二度と総裁選に挑戦できなかったような無様さだった。
岸田首相が、最初に総裁選に挑戦しようとしたのは、2018年9月だった。当時、連続3期当選を目指す安倍晋三首相と、石破茂元幹事長が立候補して、安倍首相が勝利した。一方、安倍首相の有力な対抗馬とみられていた岸田氏は、不出馬を決定した。岸田氏は、「今の政治課題に、安倍総理を中心にしっかりと取り組みを進めることが適切だと判断した」と不出馬の理由を語った。
宏池会(岸田派)内は、若手を中心に出馬を促す「主戦論」と、ベテランを中心に今回は出馬せず、次回の総裁選挙で安倍首相からの禅譲を目指す「慎重論」で割れていた。岸田氏は、総裁選に出馬するかを慎重に検討してきたが、結局、自民党内に「安倍首相は、余人をもって代えがたし」という「空気」が広がる中、勝機が全くみえないことから、勝てない戦を避けて、安倍首相からの将来の「禅譲」に望みを託すことに決めたのだ。
だが、岸田氏の総裁選不出馬表明が、安倍首相の出身派閥である細田派、そして麻生派、二階派が支持表明した後になったことが問題だった。安倍首相側から「今さら支持すると言われても、遅すぎる」と言われてしまったのだ。岸田氏は、政局眼の弱さ、頼りなさをみせることになってしまった。