様々な映画の題材にも
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』だけでなく、サスペンスやホラー映画、ドラマでは「フォリアドゥ(感応精神病)」というテーマが、しばしば現実と幻覚、妄想が交錯する展開に用いられる。
例えば、1997年の今敏監督のアニメ映画『パーフェクトブルー』では、アイドルから女優へと転身を図る主人公が現実と虚構の境界を見失う過程で、フォリアドゥ的な要素が強調されている。この作品では、観客が主人公とともに混乱を体験する構造が取られている。
また、2006年のアメリカ映画『BUG/バグ』では、孤独な女性アグネスが「虫が見える」と主張するピーターとともに現実と妄想の境目を共有し、精神的に追い詰められていく。この映画でもフォリアドゥのテーマが強調され、登場人物たちの精神状態が観客に不安感を与える。
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』では、このフォリアドゥを掘り下げることで、観客に精神疾患や社会からの疎外感について考えさせる狙いがあるかもしれない。映画は、ジョーカーのカオス的な影響が他者にどのように広がるかを探求し、これを単なる個人的な狂気ではなく、社会全体が抱える問題として描く。
SNS時代のフォリアドゥ 陰謀論を拡散 ドナルド・トランプ現象とも類似
現代社会において、感応精神病(フォリアドゥ)はSNSによって拡大する可能性がなくはない。フォリアドゥは、特定の精神状態や妄想を二人以上が共有する現象であるが、SNSでは、カリスマ的なリーダーやインフルエンサーがフォロワーに強い影響力を持ち、その結果、同じ誤った情報や妄想を共有するフォリアドゥ的な状況が生まれることがある。
特に陰謀論は、複雑な出来事を単純に説明し、不確実性からくる不安を軽減する手段として利用される。SNSはこうした陰謀論の拡散を助長し、カリスマ的な人物がそれらを広めることで、多くの人々が同じ信念を共有しやすくなる。このようにして、SNSは感応精神病的な環境を形成し、誤った情報の広がりを加速させる(*4)。
そしてアメリカのドナルド・トランプ氏の支持者がSNSを通じて集まり、彼の主張や陰謀論に共鳴した現象は、フォリアドゥ的現象でもある。トランプ氏はカリスマ的なリーダーとして、強力なメッセージを発信し、多くの支持者に影響を与えた。これにより、SNS上で共有される誤った情報が拡散し、社会的混乱や誤解が生じた。
これは映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』で描かれるような、カオス的な影響力と類似しており、個人の狂気が集団へ広がる一例と言える。
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■引用・参考文献
(*1)「妄想が伝染する『フォリアドゥ『とは? 精神科医が『社会で孤立しがちな人』へ警鐘鳴らす」メーテレ 2024年10月12日
(*2)メーテレ 2024年10月12日
(*3)「『もう俺1人じゃない』 映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』美しい狂気にジョーカーとハーリーンが踊る特報映像公開」otocoto 2024年4月10日
(*4)ジェイムズ・ティリー「【寄稿】 陰謀論──なぜこれほど大勢が信じるのか」BBC NEWS JAPAN 2019年2月18日
(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2024年10月26日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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