知的生産性「だけ」が評価されるアメリカ社会の行き着く先
人間の活動というのは多岐にわたります。対面でサービスを提供する人、単純な作業労働をする人、肉体労働をする人などもあります。ですが、そうした職種は、どんどん機械に置き換わります。ですから、発展途上の機械より「人間のほうがコストが安い」場合のみ人間の雇用が発生するわけです。最初から公平ではありません。
例えば日本のサービス業の場合は「おもてなし」カルチャーという不思議な伝統文化があって、悪く言えば「やりがい搾取」、良く言えば「ヒューマンなサービス提供が高いモラルを伴う」という現象があります。ですが、アメリカの場合はそうした文化はないので、サービス業への誇りや満足ということは個別の問題としてはあっても、全体としてはありません。
いずれにしても、この格差をもたらす全体構図について、共和党の側は詐術ともいうべきものの、論点をイデオロギー運動にズラす事で集票を狙い、見事に成果を挙げました。一方で、民主党にはそのような自覚はありませんでした。誰にでも機会が与えられる中では、競争社会を維持して能力を活用することが全体を豊かにするという思想しかなかったのです。
この思想、つまり社会が知的生産性「だけ」を評価するようになる中では、知的カルチャーと経済的成功という組み合わせが社会の中心になる、つまり国際性や多様性がカネの匂いをさせながら社会を支配してゆくということになります。その結果として多様性や環境や貧困(最低限の階層)の救済などリベラルな文化とカネというものが親和性を持って結合し、社会を支配してゆくわけです。
考えてみれば、これは何よりも「ビル・クリントン=トニー・ブレア」路線と言っていいでしょう。リベラルな考え方とカネを結びつけることで、知的生産性を支える文明とするわけで、本籍はリベラルだが、実際は極めて合理的に経済を支えるという考え方です。
英国では、この「第三の道」は、まずイラク戦争への反対によって否定され、次にはリベラルな保守党政権になったものの、EU脱退という形で、それも破壊されました。ですが、アメリカでは、オバマが実に巧妙に延命させて、裏ではリストラを激しく進めながら、多国籍なテック企業主導の経済と、リベラルなイデオロギーを結合させて8年を引っ張ったわけです。
ですが、今回のトランプ圧勝は、この組み合わせを壊してしまいました。ハリスという人は、客観的に見れば、悪い意味でのカネの匂いとは無縁ですし、経済政策は現実主義で中道です。イデオロギーについても、「思い切り左」ではありません。ですから、2025年以降のアメリカを回すうえで不適格ではないと思うのですが、とにかくこの組み合わせ、「カネとリベラリズム」というセットが、ここまで強く否定されてしまうと、政権はどうしても向こう側に行ってしまったわけです。
民主党がどのように党勢を立て直すのかは勿論、とにかく左派と穏健派の間で不毛な分裂抗争をしないことが大事です。原点としては、とにかく仕切り直しが必要です。この問題、つまり知的イデオロギー(国際、多様性、人権、環境、超弱者救済)と、知的生産性というカネを両輪とする政治運動という形では、もう大きな社会を回せないということにどう気づいて、どう対応するかにかかっているのだと思います。