トランプの戯言に過ぎないグリーンランド買い取り案
トランプが、
- デンマークの自治領グリーランドの買い取り
- カナダを米国の51番目の州への編入
- パナマ運河の管轄権復活
などを言い出していることも、彼の認知障害・妄想性障害が相当悪化して狂気に近づきつつあることの現れと考えて差し支えない。
グリーランドについて最初に口にしたのは、第1期途中の2019年のことで、これにはデンマーク首相が強く反発、予定されていたトランプのデンマーク訪問が中止となる騒ぎとなった。
その時は、彼の関心は石炭や亜鉛、銅、鉄鋼などの天然資源にあると報じられたが、今回はそれよりも「国家安全保障と世界の自由のために、米国はグリーンランドの所有と管理が絶対的に必要」と強調している。
これに関連して、12月26日付の毎日新聞に「ロンドン篠田航一」署名の記事があり、「米ニュースサイト『ポリティカ』によると、仮にロシアが米側に向けて核ミサイルを発射した場合、グリーンランド上空を通る可能性が高い」ことがトランプがここを欲しがる地政学的理由であると述べられているが、これには「あれれ?」と引っかかった。
この北極圏越しの米露ミサイル対決という問題は、私が『最新・世界地図の読み方』(講談社現代新書、1999年刊=絶版)などで盛んに論じてきたところで、大凡の地理関係は頭に入っている。
ロシアの陸上固定のICBM基地の多くがあるとされる東経100度以東の東シベリアのどこかから西経75~80度のニューヨークやワシントンDCに向け北極点越しに発射した場合は、グリーンランドの端っこを掠めるかもしれないが「上空を通る」という感じにはならない。
それにそもそも、ICBMは偵察衛星の目に晒される陸上発射よりも、衛星からは探知不能な潜水艦からの海中発射が重視されるようになっているはずで、その場合はグリーランドは地理的には全く関係がない。
それでも、もしかするとポリティカに「上空を通る」という記述があるのかと探求したが、すでに削除されたのか、そのような記事は見つからなかった。
確かに、米国はグリーンランド西岸に1950年代から「ピツフィク空軍(現在は宇宙軍)基地」を保有していて、それは北極圏空域の監視に役立ってはいるのだろうけれども、その機能に何らかの障害が生じ、グリーランドそのものを米国が買い取らなければそれを克服できないほどの重大事情が発生しているという話は皆無。
詰まるところこの主張は、トランプの不動産屋的な地上げ屋感覚に基づく単なる戯言に過ぎず、マスコミがそれに何か重大な地政学的根拠があるかのように論じてバックアップしてやる必要などどこにもありはしない。トランプに対して「バカ言ってんじゃね~よ!」と切って捨てればいいのである。
にも関わらず、この篠田さんという方は、毎日新聞ロンドン支局長らしいのだが、こういうあやふや記事を書き、トランプが何か世界にとって意味のあることを言っているかのような幻想を拡散する役目を果たしている。地政学的な話をする場合は、せめて初歩的な動作として、関連する地図(図1、2参照)を眺めてから記事を書いた方がいいんじゃないでしょうか。
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