夜の酒席で重要方針が決められ、国会は法案通過のためのセレモニーにすぎない。そんな密室政治を終わらせないかぎり日本は永遠に変わらないが、これまで誰もその具体的方法を提示できなかった。しかし今は違う。石丸伸二氏が維新・吉村氏と国民・玉木氏の「ユーチューブ党首会談」を仲介すれば、有権者に分かりやすい形で政治の可視化を実現できる。政権交代の目も出てくるだろう。元全国紙社会部記者の新 恭氏は「維新と国民の“共闘”に向けたネット番組での本気の話し合いが実際に行われるとしたら、これは画期的なこと」と期待感をにじませる。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:石丸氏が仲介役の維新・国民ユーチューブ会談は実現するか
“新米ユーチューバー”吉村洋文維新代表の狙い
大阪府の吉村洋文知事は最近になって、ユーチューバー生活をはじめた。“師匠”は東京都知事選で名をはせた前安芸高田市長、石丸伸二氏だ。
昨年12月1日の「吉村洋文チャンネル」。日本維新の会代表に選出された報告をしたあと、吉村氏はこんな話をした。
「そうそう、石丸さんからアドバイスがあって、吉村さんYouTubeはじめたみたいだけど、政策もいいけどもっと“人となり”を出したほうがいいんじゃないのと言ってくれた。“人となり”を僕が出せるかなとも思うけど、それはそれでなんとかやっていきたいなと・・・」
石丸氏は近く新党を旗揚げする予定だ。今夏の東京都議会議員選挙に候補者を擁立するための「地域政党」だという。その地位にしがみつかないよう二期8年以上の多選は認めないユニークな政党で、小池都知事にとっては気になる動きになりそうだ。
維新・国民の「ユーチューブ党首会談」、石丸伸二氏が仲介へ?
石丸氏がSNSを駆使し東京都知事選で160万をこえる得票をした事実は政界に衝撃をもたらしたが、その重要度をより深く理解したと思われる政治家が少なくとも二人いた。維新代表の吉村氏と、いまをときめく国民民主党代表の玉木雄一郎氏だ。
昨年の衆議院選で国民民主党が躍進した陰の立役者が、YouTubeの動画メディア「リハック」(ReHacQ)で玉木雄一郎氏と対談し第三者的な視点でアドバイスした石丸氏であったことは知っての通り。吉村氏も同メディアで石丸氏と知り合い、昨年の12月23日に2回目の生対談を行った。
その対談は実に驚くべき中身になった。国民民主党の看板政策「103万円の壁」引き上げに話が及んだ時のことだ。
吉村氏「178万への引き上に賛成だ。それと僕らの高校無償化を一緒にやろうと国民さんに言ってもらえるなら、ぜひ一緒にやって実現したい。石丸さん、坂本龍馬のような仲介役を引き受けてくれませんか」
なんということだろう。維新が国民民主と手を組んで、それぞれの政策を実現するために、薩長同盟における坂本龍馬のような役割を石丸氏に担ってもらえないかというのである。
「(国民民主が)梯子を外すことなしに腹をくくっていただけるなら」(吉村氏)という条件付きではあるが、野党で二番目の勢力を誇る政党の党首がこうも明け透けに腹の内を明かしてもいいものだろうか。
維新は、国会の活動を担う共同代表に前原誠司氏を据え、教育無償化の協議体設置と引き換えに補正予算案への賛成に転じた。これについて、政権与党が国民と維新を両天秤にかけることを許したとか、国民の政策実現を邪魔する動きだとか批判する声があがり、吉村代表はその火消しに躍起になっていた。
たしかに、国民民主が「103万円の壁」政策で、引き上げ額を交渉している最中に、石破首相と親しい維新の前原共同代表が割り込んできて、かき乱しているように見えなくもない。財務省の雑な試算では「178万円」にするのに7~8兆円の財源を要するところを、教育無償化なら6000億円以内ですむという。自公政権にしてみれば、国民民主から維新に乗り換える選択肢も加わったといえるだろう。
自民密室政治を終わらせる吉村・玉木同盟。前原氏の扱い課題に
むろん、石丸氏が坂本龍馬役をつとめるといっても、話し合いの場は密室ではなく、「リハック」の撮影場所である。ここに玉木氏、吉村氏はもちろん、できれば前原氏も集合し、石丸氏とともに両党の連携について忌憚のない意見を交わし、それを生中継するというプランだ。
ちなみに吉村氏と玉木氏の間柄は悪くないようだ。最近、吉村氏が議員会館内の玉木氏の事務所を訪ね、ケーキを食べて談笑する写真が公開されている。「喫茶玉木でこの前、会った。誠実な人。軽い感じが僕と合うなと思う」というのが吉村氏の玉木評だ。
石丸氏は「僕にできることがあるなら喜んでという感じ。みんな一堂に会して、せーので大団円に向かいましょう」と請け合った。だが、国民民主がそうたやすく乗れる話なのだろうかと考えると、確信は持てない。
なにしろ、国民民主は少数与党となって野党の協力が欠かせない石破政権が最も頼りにしてきた政党だ。人気に陰りが見え党内対立も激しい維新を横目に、政策実現レースのトップを独走してきたのだ。いまさら維新と手を組むことになって、支持者から強い反発が起こるのがなにより怖い。
しかも、国会で実際に連携する相手が、ろくに話し合いもせずに国民民主を出て行った前原氏なのだから、なおさら難しい。
それでも、説得力がハンパではない石丸氏が乗り出すのなら、成らぬ話ではないような気がするから不思議なものだ。吉村氏は「決定権は僕にある」と明言しており、少なくともネットの一番組と軽んじるべきではないだろう。
リラックスした雰囲気のもと2時間にわたった石丸・吉村対談。同じように人々がありのままを目撃できる形で政党間の話し合いが行われるとしたら実に興味深い。
維新と国民が国会で共闘するとなれば、石破政権は両天秤にかけて、それぞれを疑心暗鬼にさせ、有利に事を運ぶという作戦をとりにくくなる。両党が相談し合えることによって「囚人のジレンマ」に陥ることなく、与党側に対して的確な一手を打ちやすくなるからだ。
「維国同盟」成立なら自公政権崩壊の可能性は十分
当然のことながら、石破首相にとっての最初の難関は新年度予算案を年度内、すなわち3月末までに成立させられるかどうかである。
もし、両党が共闘して当初予算案に反対する姿勢を見せれば、自公政権としては立憲民主党という選択肢にまで間口を広げなくてはならなくなる。財務省の増税路線を軸とした「自公立」大連立の可能性も囁かれるが、実際には、たやすいことではない。
立憲は企業・団体献金禁止法案を衆院に提出済みで、その取扱いについては3月末までに結論を出すという約束を与党側からとりつけている。まずは与党がこの法案に賛同しなければ、立憲との連携は不可能だろう。ところが、企業・団体献金によって圧倒的な資金を確保してきた自民党は、禁止法案をどうしても阻止したい立場だ。
一方、野党側はこぞって立憲のこの法案に賛成する可能性が出てきた。法案に「政治団体を除く」という“抜け道”があるのを懸念材料として国民民主が慎重姿勢を示してきたが、この文言が取り除かれれば、反対する正当な理由がなくなる。
3月末といえば、まさに新年度予算案が成立するかどうかの瀬戸際だ。全野党が求める法案を与党がはねつけ、その結果、予算案が年度内に成立しなければ、党内外から石破首相の責任論が湧き上がるだろう。
1994年4月に誕生した少数与党の羽田内閣は、5月になっても新年度予算の審議に入ることができず、暫定予算で急場をしのいだ。新年度予算が成立したのはなんと6月23日にまでずれ込んだ。野党の自民党は内閣不信任決議案を提出し、同党と社会党の賛成多数で可決。羽田首相は内閣総辞職に追い込まれた。
それと同じように、少数与党の石破政権に対して、野党が結束して内閣不信任決議案を出し、衆院解散、衆参ダブル選挙に持ち込んで、一気に政権交代をねらうというシナリオも全く考えられないわけではないのだ。
今の日本で何よりも大切なのは「政治の可視化」
だが、そのためには立憲が国民の玉木氏を総理に担ぎあげることで野党各党を説得するといった、かつての小沢一郎ばりの剛腕が必要だろう。
もちろん、参議院選をひかえて党の“顔”をすげ替えるため自民党内で「石破おろし」が起こる可能性も高い。少数与党の政権にはどんな政変が襲ってきても不思議はないのだ。
石破首相としては、野党の諸要求をのみ、それぞれの政策を実現させるしか延命する手立てはないのではないか。企業・団体献金を禁止し、「103万円の壁」を178万円まで引き上げ、教育無償化を実現する。それで内閣支持率がはね上がれば、退陣要求をする側も考え込まざるをえないだろう。
石丸・吉村対談からいささか話を広げすぎたようだ。石丸氏のめざす「政治の可視化」が少しずつ進みつつあるのではないかという期待感が、この記事を書く動機だった。
石丸氏が仲介役となり、維新と国民の“共闘”に向けたネット番組での本気の話し合いが実際に行われるとしたら、これは画期的なことではないか。両党の結びつきが日本にとって良いのか悪いのかは別問題。密室政治にはもううんざりだ。凝り固まった“永田町文化”を破壊しない限り、いつまでもこの国の政治は変らない。
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