もはやアメリカを脅威とみなさず。中国が「トランプ2.0」の動きを静観している理由

 

即座に打ち出した対抗措置。際立っていた中国の反応

つまり、素直に考えれば関税発動の裏にはフェンタニルがあると理解されるのだ。

だが、国境対策の強化にいち早く動いたカナダとメキシコに比べ、中国の反応は際立っていた。

フェンタニル問題で何の動きも見せなかったどころか、即座に対抗措置を打ち出したからだ。

そもそも中国はフェンタニル問題で外国にできることは限られているとの立場だ。

顕著なのは中国公安部の反論だ。

(中国は)米国側の要請に応じて、2019年に世界に先駆けて正式にフェンタニル類物質を規制対象に加えた。しかし米国はいまだに規制対象としていない。中国が規制対象にした後、米国側から中国由来のフェンタニルを押収したという通報を受けていない。

フェンタニル危機の根源はアメリカ自身にあり、国内の麻薬需要を減らし、法執行協力を強化することこそ根本的な解決策だ。他国に責任を押しつけても真の解決にはならない。それどころか麻薬取締分野における中米の協力と信頼を損なうことになる。
(2月2日)

つまり中国はアメリカが本気でフェンタニルに取り組んでいるとは考えておらず、これも対中プレッシャーの単なる道具の一つとみているのだ。

実際、カナダとメキシコが勝ち取ったのは1カ月間の延期に過ぎず、その場しのぎだ。

ましてや対中国の少額小包免税廃止の撤廃は、流通の混乱が思った以上に広がったことで調整を余儀なくされただけの話だ。

結局のところトランプが望む「中国に対する圧倒的な優位な立場なのだろう」を手に入れるまで中国への攻撃は収まらないのだ。

そして先に書いたように、今回の対中攻勢はトランプ「0.1」とは比べようもないほど練られているのだ。

少額小包免税廃止では不発に終わったが、中国の痛いところを突く戦略だったことは間違いない。

トランプ政権の顔ぶれも「0.1」ではベテランで高官レベルの人材が多く登用されていたが、今回は若手中心で、政策提案よりもトランプの政策を忠実に実行するためのメンバーをそろえたと中国は受け止めている。

1月7日の記者会見でグリーンランドの買取に意欲を示したのはレアアースなど資源が目当てとされる。その野心はロシア・ウクライナ戦争の解決に絡み、ウクライナの持つ鉱物資源に言及したことで裏付けされた。

それらはいずれも中国との対立が深刻化した後のデカップリングを視野に、備えていると見ることもできるのだ。

だが、不思議なことに中国は、こうしたトランプ「2.0」の動きに一喜一憂はしていない。むしろ静観している。

それはなぜなのか。清華大学国際関係研究所のヤン・シュエトン名誉所長は米誌『フォーリン・アフェアーズ』に「トランプを恐怖とみなしていない」と書いているが、その理由として「1期目から多くを学んだ」からだと解説している。

重要な指摘だが、加えてもう一つ見逃せないのは、長期的な対立は避けられないと中国が覚悟したと思われる点だ。中国は国際社会のなかで自らが取るべきポジションを定め、その点でも自信をもち始めている。

次回はその背景について触れてゆきたい。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年2月9日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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