「このままでは参院選で負ける」方針大転換のワケ
この案件の問題点が国会で取り上げられたのは今年1月末だった。朝日新聞の記事によると、批判を受けて石破首相は周囲に「凍結も考えざるを得ない」と語っていたのだが、厚労省や財務省が方向転換に抵抗したという。
そのため、3段階の限度額引き上げのうち、今年8月の第一段階だけを実施することに修正し、予算案が衆議院を通過したわけだが、今夏に選挙をひかえた参議院での質疑は石破首相に自民党内の“現実”を鋭く突きつける内容となった。
3月5日の参院予算委員会。自民党の佐藤正久議員は高額医療費制度の自己負担限度額引き上げについて、次のように石破首相の姿勢をただした。
「国民の理解が得られないと、そのまま夏の参議院選に跳ね返ります。18年前、なぜ負けたか。年金と社会保障ですよ、総理。とくに高額医療の総理方針は国民の理解を得られていません。先日、病院長が集まる会合があって参加してきました。患者がおカネで治療を躊躇したらどうする、国民の方を向かない自民党は国民政党というのをやめたほうがいいとまで言われ、散々でした」
石破首相は心理的に追い込まれた。実はこの日午前の審議でその伏線が敷かれていた。参考人として出席した全国がん患者団体連合会の轟浩美理事の発言だ。
「限度額引き上げが、多くの患者にとって大きな一撃となり、治療中断に追い込まれ、命を落とす患者が生まれてしまうことを強く危惧しております」
アンケートに寄せられた3600人超の声を直接渡したいと轟氏は訴え、石破首相との面会を求めた。野党議員がさらに面会を要求すると、その場の空気に気圧されたような石破首相の言葉が飛び出した。「けっこうです、うけたまわります」
厚労省関係者が「面会して何もなし、というわけにはいかない」と頭を抱えたというが、まさにその通りだった。それから2日後の朝、石破首相は官邸で福岡資麿厚労相、加藤勝信財務相と会い、全面凍結の方針を決めた。午後からは、全国がん患者団体連合会の代表らに面会する予定になっていて、その前に手を打ったかたちだ。
参院選で不利になる条件をできるだけ排除したい自公の参院議員たちと、患者団体の代表と面会するにあたって、冷淡な態度を示すのを避けたい石破首相。そうした要素がからみあっての方針大転換だったといえる。