自公立「大連立」への布石と見るのは時期尚早
別の側面からは、自民党が高額療養費の引き上げ反対を強く打ち出してきた立憲民主党の顔を立てたと見ることも可能だ。裏交渉に長けた“国対族”の大物二人、すなわち自民の森山裕幹事長と立憲の安住淳衆院予算委員長の関係から連想されることではある。
だが、これがただちに自公と立憲との“大連立”への布石だと見るのは時期尚早といえよう。たしかに立憲民主党の野田佳彦(代表)、安住淳の両氏は元財務大臣であり、財務省と深いつながりがある。財務省が媒介となって、大連立へ向かう可能性が一部の専門家から指摘されている。しかしそれはあくまで、財務省にとって都合のいい形であるに過ぎない。
なにより、政策が違う。選挙協力も難しい。立憲にとっては「野党の存在意義」を問われ、かつての社会党のように衰退に向かう分水嶺となりかねない。
しかも立憲の党内は、江田憲司氏を中心とする減税派の議員がかなりの数にのぼり、野田主流派との間で対立が深まりつつある。緊縮財政路線で石破首相と気脈の通じる野田代表らが自公と大連立を組もうとすれば、党分裂のきっかけとなる可能性がないとはいえない。
「石破おろし」の狼煙が上がる
ともかく、高額療養費をめぐるドタバタ劇は石破首相にとって政権運営上、痛恨の一事となった。自民党内には石破首相の失点をあげつらい、「石破おろし」の大義、時宜をつかもうとしている面々がウヨウヨしている。
膨張する医療費を抑制したい政府の意図はわかるが、弱い立場の人々をさらなる窮地に追い込むような制度変更が世間に受け入れられるはずがない。石破首相とすれば、政権の危機管理上も、もっと早い段階で引っ込めておくべきだった。
それをしなかったばかりに、衆院で可決済みの新年度予算案をどう扱うかが難しくなった。野党5党の国会対策委員長らは、方針転換の経緯をただすため衆院に戻して予算委員会で集中審議を行い、再び予算案を修正するよう働きかけていく方向を確認している。不手際を追及する野党の動きはさらに強まるだろう。
石破首相の政策遂行能力への疑問符はますます大きくなった。3月12日に開かれた自民党参院議員総会では、積極財政派の論客、西田昌司議員から「今の体制では参院選を戦えない」と、首相交代を求める声が飛び出した。倒閣運動の狼煙が上がったと見るべきなのかもしれない。
【関連】石破首相が育てた「 #財務省解体デモ 」の本質とは?30代支持率で「れいわが自民を逆転」の衝撃。国民の怒り今夏限界点へ
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