中国とトルコがウクライナの部分停戦に示す複雑な心境
今回の部分停戦に複雑な心境を示しているのが中国とトルコです。
まず中国については、停戦の実施に対しては歓迎の意を表しているものの、これでロシア・ウクライナ戦争が沈静化し、その結果、アメリカの戦力と軍事資源がアジア太平洋に振り向けられること、つまり中国との対峙に回される事態を恐れており、外交ルートを通じて、ロシアに対して懸念を表明しているようです。
ただちょっとパワーバランスがロシア側に振れた状況を、中国との関係の見直しのチャンスと感じているプーチン大統領は、習近平国家主席に対してのらりくらりとした態度ではぐらかし、現在、米中を天秤にかけて、国際社会における影響力の回復に努め、願わくはいろいろな案件のキャスティング・ボート(casting vote)を握る立ち位置への復帰を狙っているようです。
中国政府、特に習近平国家主席はこのような事態に対して、どのようなカードを切るのか?これから1か月ほどの進展に注目です。
トルコについては、トランプ前政権時にロシアからS400ミサイルを購入・配備したことでトランプ大統領およびアメリカとの関係が悪化していましたが、今回のロシア・ウクライナ間の部分的な停戦合意をフルに歓迎する旨表明し、ロシア・ウクライナ間の停戦の仲介および停戦の監視に協力すると伝えることで、アメリカとの関係修復を図っています。
その背後には、中東情勢の安定化に対しても何らかの関与を深めたいエルドアン大統領の意図が見え隠れしていますが、まるでカメレオンのように全方位外交を続けるトルコの姿勢をアメリカ、ロシア、欧州などがどのように見て、対処するのかは未知数と言えます。
ロシア側が設定した“30日間”の停戦期間が過ぎる頃にどのような事態が待っているのか、大注目です(それまで水面下での調停に参加することになっています)。
仲介者にはあってはならない姿勢に出たアメリカ政府
では、トランプ大統領が“解決”を試みる中東情勢、特にガザを巡る停戦はどうでしょうか?
こちらについては、トランプ政権誕生前夜に停戦合意が発効し、3月1日を期限に“人質の相互交換”を行う第1段階が実施されてきましたが、イスラエル側とハマス側の“人質交換の順位・プライオリティ”に対する解釈の乖離により、人質の解放および遺体の返却のプロセスが停止した状況になっていました。
その背景には、第1段階完遂を前に、ハマス側としては恒久的な停戦を協議するプロセスを指す第2段階の基礎作りを確定したいという思惑があり、そのために取引材料として人質と遺体の返却を一旦停止するという動きに出たことがありますが、第2段階の実施にとても後ろ向きの姿勢を明確にするイスラエル政府は、ハマス側からの提案と要請を拒み、「人質全員の帰還が達成するまで、第2段階についての協議は行わない」と伝達し、アメリカのウィトコフ特使を通じて第1段階の60日延長を要求しました。
これに難色を示したハマスの態度を“敵対行為”と一方的に見なし、3月18日・19日にガザ全域に対して大規模な空爆を行い、19日には地上部隊のガザ地区への再侵入が決行され、停戦合意が実質的に崩壊することに繋がりました。
この空爆および一連のイスラエルの軍事行動に対して、アメリカ政府は全面的な理解と支持を表明し、「こうなったのは一方的にハマスの責任」と仲介者にはあってはならない姿勢にでましたが、ラマダン中の攻撃、特に真夜中の最後の食事を楽しんでいるところに無差別攻撃を加えることは、非人道的行為の極みであると国際社会は非難を強めています。
特に19日の空爆でUNOPS(UN Project Services)の職員が殺され、多数が負傷したことは、UNを決して攻撃対象にしてはならないという国際法に対する明白な違反行為であるため、欧州各国もロシアも中国も挙ってイスラエル非難を強める事態になり、対イスラエル非難決議を阻止するためにアメリカが拒否権発動を行うという異常な事態が繰り広げられたことは大きなショックです(完全なダブルスタンダードの例です)。
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