「アメリカがまったく頼りにならない」という事実
そのアラブの変遷を支えているのが、サウジアラビア王国およびアラブ首長国連邦とイランの関係修復の動きで、サウジアラビア王国の外交筋によると「アメリカと完全に関係を断つことは賢明ではないが、アメリカがまったく頼りにならないことも事実で、アラブ社会の安定のために、イランとの軋轢は解消して、地域として団結することが賢明だと考えている」とのことで、ここでもまた大きな勢力図の変化が見られます。
もしガザにおける停戦合意がイスラエルにより破られ、アメリカがそれを後押しし、ハマスが武力抵抗を再開するような事態になれば、一気にデリケートな“和平への希望”は崩れ去り、結果としてレバノン、シリアを巻き込んだ地域紛争が勃発し、それが飛び火してアラブ諸国のどこかに至った場合、イスラエルはまたアラブ全体を敵に回した終わりなき戦いに突入することになります。
それもこれまでとの大きな違いは、恐らくアラブ社会とペルシャ社会(つまりイラン)がjoint forcesとしてイスラエルに襲い掛かるという悪夢が、強ち妄想とは言えない事態になっていることです。
事態を収拾できるか否かは、この全面的な衝突にアメリカは直接的にコミットするのかどうかという点にかかっています。
アメリカが中東に直接的にコミットした場合(そうなりそうな気がしてなりませんが)、アメリカは確実に中東に引き戻され、イスラエルと共に、アラブとペルシャを敵に回すことになります。そしてペルシャとアラブの背後にはロシアと中国が控えていることで、広域の中東地域における世界戦争が勃発することになりかねません。
もしコミットしなかった場合、それは恐らくアメリカとイスラエルの“特別な同盟関係”の終わりを意味し、トランプ大統領と政権はアメリカ国内のユダヤ人支持層からの支持を失うことに繋がるということになります。
ゆえにアメリカにとっては【進むも地獄、退くも地獄】の状態に自らを追い込んでいることになります。
どうしてこのような事態に陥ってしまったのでしょうか?
それはロシア・ウクライナ間の停戦でも、ガザの停戦でも同じことが原因と言えます。
それは手柄を急ぎすぎ、停戦というかたちだけを追い求め、停戦合意の中身をろくに熟慮しないまま、見切り発車でプロセスを始めたため、プーチン大統領にも、ネタニエフ首相にも足元を見られ、それぞれのいいようにトランプ大統領の強引な姿勢を利用されるという事態です。
場当たり的な発言と行動により、紛争当事者たちを右往左往させ、企てをもつ者たちに勢力拡大と復活の機会を与えただけでなく、トランプ大統領を隠れ蓑に、さらなる悪行を重ねさせるという悪の環境を作り上げてしまったことで、今後、止めるはずだった戦いは過熱し、もう制御不能な状態に発展してしまうのではないかと恐れています。
すでにその兆候はガザで見られ、トランプ大統領が「これ以上の犠牲は見たくない」と言っているにも関わらず、イスラエルはガザへの無差別攻撃を再開して、さらなる犠牲を生むという悪循環に陥っています。
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